徹夜クッキー事変
私は非行にこそ走らなかったが、実は過去に感情制御システムが完全崩壊した事例がある。
それが、通称「徹夜クッキー事変」である。
高校生だったある日、部活から帰還し残存体力が10%を切っていた私は、「極限的節約思想」を持つ司令官(母)より、親戚への贈答用補給物資、すなわちクッキーの大量製造任務を命じられた。
なお、司令官はクッキーの製造スキルを一切保有していない為、この任務は私への丸投げ作戦であった。
私は忠実に任務を遂行。
生地の配合から成形、焼成、冷却、装飾、包装に至るまで一切の妥協なく作業を完了した。
気づけば時刻は深夜を過ぎていた。
しかし出来栄えは上々。
「これなら司令官も納得するに違いない。」と確信し、朝方に就寝。
ここからが本番である。
翌朝、私は戦果報告と共に司令官からの評価を待った。
だが、帰ってきたのは労いではなく、予想だにしない熱線追尾型ミサイル攻撃だった。
「夜中までゴソゴソうるさくて安眠を妨害された。」
「たかがクッキーごときすら迅速に作れないのか。」
この瞬間、私の内部にて警報が鳴り響く。
「怒りゲージ→上限突破」、「理性ユニット→応答遅延」、「感情システム→過負荷」。
私は一時的に「無言モード」で防御するも、司令官からのしつこい罵倒追撃は止まらない。
その追撃は、徹夜で疲労困憊していた私の感情制御システムを次々と破壊していった。
そして「無言モード」が限界を迎えた次の瞬間、
私の身体は思考回路を経由せず、勝手に「自動戦闘モード」へと移行。
私は何かを叫びながら司令官に突撃した。
ここで重要なのは、フィジカル面では司令官を上回っていたという事実である。
つまり、やろうと思えば完全制圧可能。
しかし私は、完全制圧には至らない判断を下す。
かなりギリギリで理性を残していた。
だが司令官も黙ってはいない、制圧下においても罵倒を継続し、私が手を緩めた隙に攻撃してきた。
私の感情制御システムはここで完全に崩壊。
全ての信号がノイズまみれになって火を吹いた。
その結果私は一線を越え、司令官への物理的アタックを解禁してしまう。
(ここは各自の想像に委ねる。)
ここで戦況は一気に混乱状態へ。
怒りなのか悲しみなのか、感情レベルの判別不能。
私は戦線を離脱し号泣。
一方、司令官は高速ムーブにて被害者ポジション確保モードへと移行。
この切り替え速度は驚異的であった。
それからというもの司令官は私に対し、謎の敬語による心理戦を年単位で展開。
これらの件により私のメンタルコンディションは著しく低下。
常にシステムエラーを抱えることとなった。
なお、父親ユニットは家庭内戦線においては常時機能停止および酩酊状態。
加えて、
「家庭内にて倫理的に記録不可能な挙動を示す個体」であり、家庭環境は常時異次元的カオスであった。
結果として私は、「親以外の外部の大人=正常個体」という認識を強めることになる。
ではこの演習で私は何を学習したのか。
長年に渡り分析を続けた結果、答えはただひとつ。
「クッキーは買った方が手軽だし平和である。」
以上、徹夜クッキー事変、記録終了。
