足紙(秋ピリカ参加応募作品)
さて、始めよう。
私は、右足の親指と人差し指で筆ペンを持って便箋に向かい、ゆっくりと筆を走らせる。
拝啓
秋晴の候、ご健勝のことお喜び申し上げます。
突然ですが君に伝えたいことがあります。
私は、君が大嫌いです。
シウマイに乗ったグリンピースくらい大嫌いです。
君と出会ったのは高校ニ年生の春、今日みたいな気持ちの良い晴れの日でした。
君も知っての通り、私には両腕がありません。
中学生の頃、事故で失いました。
それから二年間、懸命にリハビリに取り組み、足を腕のように扱う術を身につけ、高校に進学しました。
その時決めたのです。
自分の力で生きてやる!
私は、がむしゃらに勉強し、成績は学年で常に一位、運動だって負けませんでした。
どうだ!私は凄いんだ!一人で何でも出来るんだ!
私は、胸を張ってそう叫びたかった。
でも、聞こえてくるのは哀れみと同情、そして侮蔑の声。
誰も私を認めてくれない。
強がりながらも折れそうになる心を奮い立たせながら迎えた二年生の春。
「お前凄いなあ」
右足にチョークを挟んで黒板に問題の答えを書き込んでいく私を見て君はそう言いました。
なんだこいつ?
人を水族館のアシカみたいに見やがって!
私は、今まで抱いてきた理不尽と怒り、そして悲しみを込めて君を睨みつけました。
それなのに君は・・・。
「この問題ってどう解けばいいんだ?」
「そんな寂しくいないで一緒に食べようぜ」
「あっお前、この大学受けるんだ?じゃあ、俺も受けよう」
うるさいっ!
余計なお世話だ!
勝手に受けて勝手に落ちろ!
そんな暴言ばかり吐いてたのに、君はずっと私にくっついて、本当に同じ大学受けて、それからもずっと一緒にいて・・
迷惑です!
一人で生きようと頑張る私を馬鹿にしないで!
お願いだから私と別れて!
幸せになってください!
お願いだから・・。
私は、これ以上書くことが出来なかった。
涙が溢れて文字が見えない。
足の指からペンが落ちる。
「書けなかったな」
君は、嬉しそうに笑う。
その笑顔が堪らなく鬱陶しくて愛おしい。
私は、両足を広げて彼の背中に回す。
彼もそっと私の背中に手を回す。
「ごめんね。こんな抱きしめ方しか出来なくて」
君は、こんなに優しいのに、こんなに愛おしいのに、私は満足に抱きしめてあげることも出来ない。
こんな私・・君に相応しくないのに。
一人で生きていくと誓ったのに・・。
「愛してる・・愛してるよ」
「俺もだよ」
君は、優しく私の髪を撫でる。
「だから、喧嘩する度に別れの手紙書くのやめないか?」
「手紙じゃなくて足紙!それに書くのはやめない」
君の足枷になりたくないから。
幸せになって欲しいから。
「そう。精々頑張って」
君は、私の頭に顔を埋める。
「絶対ないから」
私は、涙に濡れた顔を彼の胸に埋めた。
足紙はいつの間にかどこかに消えていた。
(1197文字)
