ホスピタリティってだいじ。
20年くらい前の話だ。
インド洋の涙スリランカ。
海外一人旅の2回目にして思い切って行ってみた。
モルディブ経由で首都コロンボへ向かう飛行機に乗ってみたら、日本人が1%も居なかった。自分で望んだことなのだか、心細過ぎて、飛行機が飛ぶ前から家に帰りたくなった。
コロンボ空港に着いたのは0時。
到着ロビーを出ると旅行会社のカウンターがずらっと並び、真夜中にもかかわらず、タクシーや宿の勧誘で活気があった。
深夜2時頃に宿に着き、数時間寝てから外に出た。日差しが強くて目が慣れない。底抜けに青い空、その下でクリケットに興じる人々、クラクションの音、人でごった返すバスターミナル。これこれ、こういうアジアを体験したかったのだ。
世界遺産をいくつか見て回った後、古都キャンディに滞在した。ブッダの歯を祀る仏歯寺や伝統舞踊キャンディアンダンスが有名だ。
この地で、後に何十回も行く海外一人旅で唯一の盗難にあった。キャンディ芸術協会という劇場にキャンディアンダンスを観に行く際に、地元の若者たちが乗せてくれたオートリキシャの車内。車内でいろいろ矢継ぎ早に話しかけられている内に鞄からカメラを盗まれたのだ。
オートリキシャを降りた後、暫くして、また若者たちが近寄って来た。「これはお前のカメラだろ。金を出せ。金と交換だ。」と言ってきた。
彼らはにやにやしていた。
盗難に気付いていなかったのでまず驚いた。次に頭に来た。カメラを奪い取って彼らを追い払った。
キャンディアンダンスは素晴らしかったが、カメラの一件があったので、心の中は怒りの気持ちで満ち満ちていた。
キャンディアンダンスに集中できなかったことが悔しくて、どうにも気が収まらず、翌日YMBAというマイナーな劇場に向かった。やはりキャンディアンダンスは素晴らしかった。
キャンディアンダンスには特徴的な演目がある。火渡りだ。火渡りは建物の外で行われた。観客は火を取り囲んでダンサーの一挙手一投足に感嘆の声を上げる。
演目が終わった時だった。
「こんにちは。日本人?」と人懐こい笑顔の中年のスリランカ人男性に声を掛けられた。聞くと、火渡りを行なっていた庭の片隅にある地元の方々向けの食堂の店主だった。若い頃に日本で働いていたので、日本語が少しできて、珍しく日本人が居たから声を掛けたらしい。
ご飯を食べて行きなよと言われ、彼の笑顔に引き寄せられた。食堂は家族で切り盛りしていた。
注文しようとしたら「お金はいらないから、これを食べてみてよ」と次々とカレーを出してくれた。どれも美味しく、わたしが「美味しい」と言えば皆で喜び、「辛い」と言えば皆で笑い、そうこうしているうちに心の傷が消えていった。
最後に店主が、久しぶりに日本の歌を聞きたいと言った。なぜか頭に浮かんだのは長渕剛さんの「とんぼ」。恥ずかしかったが、良くしてくれたお礼をしたいと思い、アカペラで全力で歌った。
店主や奥様、子供たちは喜んでくれた。
わたしはスリランカに受け入れてもらえた気がした。じわっと身体中に暖かさが広がっていく感覚があった。
昨日までのネガティブな気持ちが嘘のように消えて、スリランカのことが大好きになった。
