EU AI Actの現在地|延期後の期限と日本企業への影響
EU AI Actの高リスクAI規制は延期されましたが、法律そのものが止まったわけではありません。2026年7月時点の適用日と、日本企業が最初に確認すべき条件を整理します。
「延期されたから、しばらく何もしなくてよい」は半分だけ正しい
EU AI Actについて、「2026年8月から全面適用」「高リスクAIは延期」「日本企業にも巨額の罰金」といった情報が混在しています。
先に結論を整理します。
高リスクAIに関する主要な義務は、2027年12月または2028年8月へ延期された
一方、禁止されるAI利用とAIリテラシーの義務は2025年2月から適用済み
汎用AIモデルの提供者に対する義務も2025年8月から適用済み
日本企業でも、EUでAIを提供・利用する場合や、AIの出力がEU域内で使われる場合は対象になりうる
日本国内だけで一般的な生成AIを社内利用している会社が、自動的に高リスクAI事業者になるわけではない
大事なのは、罰金額から読むことではありません。自社にEUとの接点があるか、AIを「提供する側」と「利用する側」のどちらとして使うか、その用途が高リスクに当たるか、という順で確認します。
この記事は2026年7月14日時点の一般情報です。個別案件への適用判断は、EU法に詳しい専門家へ確認してください。
2026年6月に延期が正式承認された
EU AI Actは2024年8月に発効し、規定ごとに適用日をずらす段階適用を採っています。
その後、実施基準やガイドラインの整備時間を確保するため、「Digital Omnibus on AI」と呼ばれる改正が進められました。欧州議会は2026年6月16日、EU理事会は同月29日に改正規則を承認しています。
2026年7月14日時点では、EUの立法機関による採択は完了し、署名・EU官報への掲載と発効を待つ段階です。したがって、以前のように単なる「政治合意」や「延期案」と表現するのは古くなっています。
改正後の主な日程は次のとおりです。


延期されたのは主に高リスクAIの適用時期です。すでに適用されている規定まで止まったわけではありません。
日本企業が対象になりうる3つの接点
EU AI Actは、会社の本社所在地だけで対象を決める法律ではありません。日本企業は、次の3つを確認します。
1. EU市場へAIサービスを提供している
日本で開発したAIシステムや汎用AIモデルを、EU市場で提供する場合です。API、クラウドサービス、アプリへの組み込みなども含まれうります。
この場合、自社はAIの「提供者」として義務を負う可能性があります。EUに拠点がなくても、EU市場へ出していれば対象外とは限りません。
2. EU拠点でAIを業務利用している
EUにある現地法人や支店が、採用、従業員評価、顧客対応などでAIを使う場合です。
自社開発ではなく、市販のAIサービスを使うだけでも、EU拠点は「導入者・利用者」に当たる可能性があります。特に採用候補者の選別や従業員評価は、高リスク用途として明示されています。
3. 日本で動かしたAIの出力がEU域内で使われる
EU AI Actは、EU域外にいる提供者・利用者についても、AIの出力がEU域内で使われる場合を適用範囲に含めています。
たとえば、日本本社のシステムがEU在住者に関する判断を行い、その結果をEU拠点で使うケースは慎重な確認が必要です。
一方、「EU企業と取引がある」「WebサイトをEUから閲覧できる」という事実だけで、すべてのAI利用が直ちに対象になるわけではありません。誰が、どこで、何の目的でAIとその出力を使うかを確認します。
リスクは4段階で考える
EU AI Actは、AIという技術を一律に規制するのではなく、用途のリスクに応じて扱いを変えています。
同じ生成AIサービスでも、用途によって分類は変わります。
社内会議の要約に使う場合と、採用候補者を自動で順位付けする場合では、人への影響がまったく違います。「ChatGPTだから低リスク」「自社開発だから高リスク」のように製品名や開発方法だけで判断してはいけません。
普通の生成AI利用でも確認したい2つの規定
AIリテラシー
AIシステムの提供者と利用者には、AIを扱う従業員などが十分なAIリテラシーを持てるよう、できる限り措置を取ることが求められています。この規定は2025年2月から適用済みです。
全員に高度なAI資格を取らせるという意味ではありません。業務とリスクに合わせて、少なくとも次を理解させます。
入力してはいけない情報
AIが誤ることと、出力の確認方法
人への重要な判断をAIだけで決めないこと
問題が起きたときの報告先
『生成AI利用ガイドラインの作り方と5つの決め事』で整理している社内ルールと短時間の研修は、この土台にもなります。
透明性
人がチャットボットとやり取りしている場合は、相手がAIであることを知らせるなど、一定の透明性が必要です。ディープフェイクや、公共的な事項を知らせる目的で公開するAI生成テキストにも表示義務が関係します。簡素化規則では、AI生成コンテンツの透明性対応に関する新たな期限が2026年12月2日とされているため、8月2日と12月2日のどちらが自社の機能に関係するかを確認してください。
自社サイトの問い合わせ対応をAI化する、AI生成の人物動画を広告に使う、といった会社は、高リスクAIでなくても確認が必要です。
高リスクAIを「使う側」にも義務がある
EU AI Actは、開発会社だけの法律ではありません。高リスクAIを自社業務で使う側にも、主に次の対応が求められます。
提供者の利用手順に従って使う
能力・研修・権限を持つ人に人間の監督を担当させる
自社が入力データを管理する場合、目的に関連し十分に代表性のあるデータを使う
稼働状況を監視し、リスクや重大事故を把握したら提供者や当局へ連絡する
職場で使う高リスクAIについて、対象となる従業員や労働者代表へ事前に知らせる
人に関する判断を支援する場合、必要に応じて対象者へAI利用を知らせる
市販製品を契約しただけで、提供会社にすべて任せられるわけではないということです。
また、既存の高リスクAIへ自社名を付ける、大幅に改変する、本来は高リスクでなかったシステムの目的を変えて高リスク用途に使う、といった場合は、利用者が「提供者」とみなされることがあります。独自ブランドでAIサービスを販売する会社は、契約上の呼び名だけで判断しないようにします。
罰金は最大7%。ただし数字だけで判断しない
現行のEU AI Actが定める主な上限は次のとおりです。

これは自動的に科される金額ではなく、違反の性質、期間、故意・過失、是正対応などを踏まえて判断される上限です。中小企業については、各区分で定額と売上高比率のうち低い側を上限とする仕組みもあります。
「最大7%だから怖い」で止まるより、自社が適用対象か、禁止用途や高リスク用途があるかを先に切り分ける方が実務的です。
日本企業が今やる7つの確認
EUとの接点が少しでもある会社は、次の順で棚卸しします。
EUの顧客、利用者、現地法人、従業員が関係するAI利用を洗い出す
AIシステム名だけでなく「何の判断・業務に使うか」を記録する
自社が提供者、利用者、輸入者、販売者のどれに当たるか仮置きする
禁止用途、高リスク用途、透明性対象の可能性を確認する
ベンダーから利用手順、性能限界、ログ、適合性に関する資料を入手する
利用者向けの教育、人間による確認、事故報告ルートを整える
高リスクまたは判断が難しい案件だけ、EU法の専門家へ相談する
棚卸し表には、最低でも次の項目を置きます。

この1枚があれば、「EU AI Act対応が必要ですか」という抽象的な議論を、具体的な用途の判断に変えられます。
4つのケースで考える

まとめ
高リスクAIの主要義務は、単体システムが2027年12月2日、製品組み込み型が2028年8月2日へ延期された
改正規則は欧州議会とEU理事会で採択済み。2026年7月14日時点では官報掲載・発効待ち
禁止されるAI利用とAIリテラシーは、すでに2025年2月から適用されている
日本企業も、EU市場への提供、EU拠点での利用、EU域内での出力利用があれば対象になりうる
製品名ではなく、用途、利用場所、自社の役割、人への影響で判断する
最初に作るべきものは分厚い法務資料ではなく、EUとの接点を含むAI利用台帳
主な参考資料
EU理事会「Artificial Intelligence: Council gives final green light to simplify and streamline rules」 https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2026/06/29/artificial-intelligence-council-gives-final-green-light-to-simplify-and-streamline-rules/
欧州委員会「AI Act」 https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/regulatory-framework-ai
欧州委員会「Navigating the AI Act」 https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/faqs/navigating-ai-act
欧州委員会「Guidelines for providers and deployers of AI high-risk systems」 https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/guidelines-ai-high-risk-systems
EUR-Lex「Regulation (EU) 2024/1689」 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/1689/oj?locale=en
EUR-Lex「Digital Omnibus on AI, PE 30/2026」 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=consil%3APE_30_2026_INIT
生成AIの導入・運用を相談したい方へ
TodoONadaでは、生成AI導入を含むシステム開発や、社内ルール・利用台帳の整備について相談を受け付けています。
EUとの接点を含む個別の法的判断は専門家との連携が必要ですが、その前段となる「どのAIを、誰が、何に使っているか」の整理からご相談いただけます。
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

