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「なんでこうなったの?」――質問はすでに尋問に変わっている

「なんでこうなったの?」

1on1で、部下にそう尋ねます。

部下は、自分なりに考えていたことや、そのときの状況を説明してくれます。こちらも途中で遮ることなく最後まで聞き、必要なことを伝えて面談は終わります。

あとになって振り返ると、どこか引っかかることがあります。話はしたはずなのに、何か大事なものを聞けなかったような。

同じような感覚は、職場だけではありません。家族や友人との会話でも、「ちゃんと聞いたつもりなのに、相手は本当に話したかったことを話せていなかったのではないか」と感じることがあります。

同じ問いを口にしているはずなのに、返ってくる言葉は一様ではありません。



同じ「なぜ」でも、中身は同じではない

疑問文は、いつも同じ働きをするわけではありません。

たとえば、「今の在庫はいくつですか」「この工程は終わっていますか」と尋ねるときは、問う側にもある程度の見通しがあります。返ってきた答えが正しいか、予定どおりかを確かめるための問いです。進捗の確認や品質管理、試験や検査には、このような問いが欠かせません。

一方で、答えそのものをまだ知らないまま尋ねることもあります。相手が何を考え、何を見ていたのか。それは聞いてみるまで分かりません。こちらは、自分の予想を確かめるためではなく、まだ知らないことを知るための問いです。

どちらが優れているかという話ではありません。仕事では、確認の問いがなければ物事は進みませんし、対話の問いがなければ、相手にしか分からないことは見えてきません。大切なのは、その二つを区別して使うことです。

古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、自分の対話を産婆の仕事になぞらえました。相手の中にある考えを言葉にする手助けをするという意味です。しかし、プラトンの対話篇『テアイテトス』を読むと、ソクラテスはそれだけではありませんでした。引き出された考えが筋の通ったものかどうかを吟味する役目も担っていました[1]。

つまり、ソクラテスは答えを知っていたわけではありませんが、どんな答えでも受け入れていたわけでもありません。相手と一緒に考えながら、その考えを確かめるための基準は持っていました。確認だけでもなく、ただ耳を傾けるだけでもない。その中間に立っていたことになります。


質問しているつもりでも、答えはもう決まっている

「なんでこうなったの?」

そう尋ねた本人は、相手の話を聞くつもりでいます。しかし、その問いを口にした時点で、「きっと確認を怠ったのだろう」「準備不足だったのだろう」という見立てが、すでに心の中にあることは少なくありません。

すると、相手の話は、その見立てが合っているかどうかを確かめる材料として聞かれていきます。本人にはそのつもりがなくても、問いの役割は、「確認の問い」に近づいています。

仕事では、原因を早く知りたい場面がたくさんあります。そのとき、人は自然と自分なりの答えを思い浮かべます。そのため、「引き出すための問い」と「確かめるための問い」は、簡単に入れ替わってしまいます。

ドイツの哲学者ハンス゠ゲオルク・ガダマー(H.-G. Gadamer)は、問いについて考えるとき、その本質は「答えの可能性を閉じないこと」にあると述べています[2]。ここで言う「問い」は、単に疑問文の形をしていることではありません。まだ知らない答えを受け取る余地を残していることが大切なのです。『Humanismus heute?(現代におけるヒューマニズム?)』でも、答えがすでに決まっている確認や修辞的な問いは、この意味での問いとは区別して論じています[3]。

この見方から先ほどの場面を眺めると、少し違う景色が見えてきます。

上司は質問をしたつもりでした。部下も質問として受け止め、理由を説明しました。しかし、やり取りが始まる前から、答えの範囲はすでに狭められていました。相手の言葉を受け止めるための問いではなく、自分の見立てを確かめる問いとして働いていたからです。

疑問文だけを見ても、この違いは分かりません。同じ言葉でも、問いになることもあれば、確認として働くこともあります。その違いは、問いを口にする前に、答えをどこまで決めているかによって生まれます。


問いの開き方が、相手の言葉を変える

組織心理学者エドガー・シャイン(Edgar H. Schein)は、ある電力会社のCEOから、組織文化を変えたいという相談を受けました。CEOはCOO(最高執行責任者)と組織開発の責任者を伴って訪れ、自分たちの会社は古い慣習に縛られ、変化できなくなっていると説明します。話が抽象的だったため、シャインは具体的な出来事を尋ねました。

COOが挙げたのは前日の役員会議です。いつもは十五人で開く会議に、その日は五人しか出席していませんでした。それでも誰も席を詰めようとはせず、全員がいつもの自分の席に座っていました。COOは、この出来事こそ自分たちが直面している問題を象徴している、と考えていました。

シャインは組織文化について議論する代わりに、一つだけ尋ねます。

「そのとき、あなたは何をしましたか。」

COOは、何もしなかったと答えます。このやり取りをきっかけに、対話の焦点は「変わらない組織文化を外側の問題として語ること」から、「その文化の中で自分たちはどう行動していたのか」へ移っていきました。シャインは、この一問をきっかけに約二時間の対話が始まり、その後およそ一年にわたる組織文化の変革につながったと振り返っています[4]。

こうした傾向は、対人支援の研究からも示唆されています。動機づけ面接に関するメタ分析では、相手を評価せずに受け止め、丁寧に問いかけながら対話を進める関わりが多いほど、クライアント自身が変化について考え、自ら言葉にする場面が増える傾向が報告されています[5]。

ここで評価されているのは、一つの質問の言い回しではなく、問いかけや応答を含めた関わり方全体です。それでも、答えを決めずに向き合う姿勢が、相手自身の言葉を引き出すことと関わっていることがうかがえます。


相手に問う前に、自分に問う

「なんでこうなったの?」

そう口にする前に、一度だけ立ち止まります。そして、自分に問いかけます。

「私は、もう答えを決めていないだろうか」

考えてみると、「確認を怠ったのではないか」「準備不足だったのではないか」といった見立てが、すでに頭の中に浮かんでいることがあります。そのことに気づいたら、最初の問いはいったん脇へ置いてみます。代わりに、自分にはまだ見えていないことがあるという前提で、相手の話を聞いてみます。

問いを変える前に、変わるのは自分自身です。相手の言葉を、自分の見立てを確かめる材料として聞くのではなく、まだ知らないこととして受け取るようにしてみる。その準備ができて初めて、問いも変わります。

確認の問いが必要な場面はもちろんあります。しかし、相手の中にしかない答えを知りたいなら、まず問う側が答えを少し手放してみる。

「私は、もう答えを決めていないだろうか」

この一拍が、問いを尋問に変えないための、小さな習慣になるはずです。


問いは、自分にも向かっている

答えをまだ持たずに問いを発するということは、相手の言葉によって自分の理解が変わる可能性を引き受けることでもあります。最初に考えていた原因とは違う話を聞くかもしれませんし、自分の見立てが外れることもあります。

問いは相手だけを変えるものではありません。答えを手放して尋ねるとき、変わるのは相手の言葉だけではなく、問う側の理解でもあります。

次に問いを口にするとき、「私は、もう答えを決めていないだろうか」と一度だけ自分に尋ねてみます。その一言から始まる問いは、相手を知るだけでなく、自分自身の見方を広げることにもつながっていくはずです。


参考文献
[1] プラトン『テアイテトス』148e-151d、ハロルド・ノース・ファウラー英訳、ロエブ古典叢書、Perseus Digital Library. https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0172%3Atext%3DTheaet.%3Apage%3D150
[2] ハンス゠ゲオルク・ガダマー『真理と方法II』轡田收・巻田悦郎訳、法政大学出版局、2008年、第II部第II章第3節c「問いの解釈学的優位」560-585頁
[3] Hans-Georg Gadamer, "Humanismus heute?" In Die Wissenschaft und das Gewissen, Humanistische Bildung 15 (Stuttgart: Württembergischer Verein zur Förderung der humanistischen Bildung, 1992), 57-70 (esp. 67).
[4] Edgar H. Schein, Humble Inquiry: The Gentle Art of Asking Instead of Telling, Berrett-Koehler Publishers, 2013.
[5] Molly Magill, Timothy R. Apodaca, Brian Borsari, Jacques Gaume, Ariel Hoadley, Rebecca E.F. Gordon, J. Scott Tonigan, and Theresa Moyers, "A Meta-Analysis of Motivational Interviewing Process: Technical, Relational, and Conditional Process Models of Change," Journal of Consulting and Clinical Psychology 86, no.2 (2018): 140-157. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5958907/

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