7_体育授業づくりのコツ
授業のゴールイメージは大切。でも、初めから描くのは難しすぎると考えている。
「授業は、ゴールから逆算して考えましょう」
これは、授業づくりの基本である。授業後に子どもたちが何を分かり、何ができるようになっているのか。その姿を思い描かなければ、授業は単なる運動の寄せ集めになってしまう。
したがって、授業のゴールイメージを持つことは大切である。
しかし、初任期の先生や体育指導に苦手意識のある先生に、最初から鮮明なゴールイメージを描くことを求めるのは、少し酷ではないだろうか。
学習指導要領上のねらいは押さえる。ただし、詳細なゴールイメージを完成させてから授業を考えようとしなくてもよい。
むしろ、予備運動、ドリルゲーム、タスクゲーム、メインゲームといった具体的な活動から授業を組み立てた方が考えやすい。中でも、最初にメインゲームを仮置きすることをお勧めしたい。
①経験が少ないと、「子どもの姿」を具体的に想像できない
授業のゴールとは、単に「パスができるようになる」「跳び箱を跳べるようになる」と書くことではない。
「どの場面で、どのように動くのか」
「どのような言葉で友達に伝えるのか」
「つまずいていた子どもが、どのように変化するのか」
ここまで具体的に描いて、初めて授業のゴールイメージになる。
しかし、初任期の先生は、まだ授業中の子どもの動きやつまずきに関する経験の蓄積が少ない。見たことのない子どもの姿を、頭の中だけで具体的に描くのは難しい。
その結果、「みんなで協力する」「楽しく運動する」「技能を高める」といった抽象的なゴールになりやすい。
これは力量不足ではない。ゴールイメージをつくるための「子どもの姿のデータ」が、まだ十分に蓄積されていないのである。
②体育授業は、同時に考える条件が多すぎる
体育では、学習内容だけでなく、次のような条件を同時に考えなければならない。
運動の得意・不得意
人数やグループ編成
場の広さ
用具の数
ルール
待ち時間
安全管理
天候や気温
教師の立ち位置
評価する児童の姿
経験の少ない先生が、これら全てを考えながら、さらに理想的なゴールイメージまで描こうとすると、授業づくりの負担が一気に大きくなる。
すると、考えることに疲れてしまい、最終的には「例年と同じ活動」「教科書に載っている活動」を順番に並べるだけになりやすい。
一方、メインゲームを一つ仮置きすると、考える範囲が絞られる。
「このゲームを成立させるには、何が必要か」
この問いを起点にすれば、必要な技能、動き、ルール、場、用具が具体的に見えてくる。
③理想のゴールを先につくると、授業が硬くなることがある
最初に完成度の高いゴールイメージをつくりすぎると、教師は無意識に、子どもをその姿へ近づけようとする。
子どもの実態が想定と違っていても、計画どおりに進めようとしてしまう。説明や指示が増え、教師が「正しい動き」を教え込む授業になりやすい。
体育授業では、実際に運動させてみて初めて分かることが多い。
「このルールでは、得意な子だけがボールを持っている」
「コートが広すぎて、パスがつながらない」
「守りが強すぎて、攻撃の学習が成立していない」
こうした子どもの姿を見ながら、ルールや人数、場を修正する必要がある。
ゴールは、初めから固定するものではない。子どもの姿を見ながら、少しずつ解像度を上げていくものである。
④メインゲームを先に考えると、授業に一本の筋が通る
ここでいうメインゲームとは、大人と同じ正式な試合ではない。単元で身に付けさせたい動きや考え方が現れやすいように、人数、場、用具、ルールを簡易化したゲームである。
メインゲームを仮置きしたら、次の三つを考える。
このゲームで成功するには、どのような動きが必要か。
子どもは、どこで困りそうか。
その困りを解決するには、何を繰り返せばよいか。
ここが明確になると、タスクゲームとドリルゲームの役割も見えてくる。
メインゲーム
単元で学んだことを発揮するゲーム
タスクゲーム
メインゲームで必要となる戦術的な課題が、何度も現れるように簡易化したゲーム
ドリルゲーム
メインゲームで使う基本的な動きや技能を、繰り返し身に付けるゲーム
予備運動
その領域に必要な身体の動きや、運動の楽しさに触れる活動
つまり、メインゲームを成立させるために、タスクゲームやドリルゲームがある。
先にドリルを選ぶと、「この練習は、何のためにしているのか」が曖昧になりやすい。先にメインゲームを考えれば、それぞれの活動が一つの学習内容でつながる。
研究上も、タスクゲームは特定の戦術的課題が繰り返し現れるようにした対人的なゲーム、ドリルゲームは基本技能の習熟に焦点を当てた活動として整理されている。ボールゲームの授業における学びの認識論的検討
⑤「メインゲームから逆算し、授業では順番に積み上げる」
例えば、ゴール型ゲームで「ボールを持たないときに、空いている場所へ動く」ことを学ばせたいとする。
最初に、3対2のメインゲームを仮置きする。
実際に考えてみると、子どもには「守りと重ならない位置へ動く」「パスを出した後に移動する」「ボール保持者が周りを見る」といった動きが必要になる。
そこで、次のように授業をつなぐ。
予備運動:鬼のいない場所を見付けて逃げる鬼遊び
ドリルゲーム:パスを出した後、別の場所へ移動する
タスクゲーム:2対1で守りをかわしてゴールまで運ぶ
メインゲーム:3対2で空いている場所を使って攻める
教師の指導言も、具体的になる。
『このゲームで得点するには、ボールを持っていない人はどこにいるとよいかな』
『今、メインゲームで困った動きだけを、タスクゲームでもう一度試してみよう』
『このパス練習は、ゲームのどの場面で使えそうかな』
このように、授業を考える順番と、子どもが学ぶ順番は反対になる。
教師は、メインゲームから逆算して考える。
子どもは、予備運動、ドリルゲーム、タスクゲーム、メインゲームの順に積み上げて学ぶ。
スポーツ庁の実践資料にも、ドリルゲーム、タスクゲーム、メインゲームを関連付けた単元例が示されている。令和の日本型学校体育構築支援事業
ゴールイメージは「入場券」ではなく「羅針盤」
授業のゴールイメージは大切である。
しかし、それは授業づくりを始める前に、必ず完成させなければならない「入場券」ではない。
まず、子どもが楽しめそうなメインゲームを一つ選ぶ。そこから、必要な動きやつまずきを考え、タスクゲームやドリルゲームをつなげる。そして、実際の子どもの姿を見ながら、ゴールイメージを具体的にしていく。
これは、ゴールから考えることを放棄する方法ではない。
抽象的な言葉から無理にゴールをつくるのではなく、具体的なゲームを通して、ゴールを見える形にしていく授業づくりを大切にする。そして、体育指導の経験が蓄積され、ワクワクした授業になっていくと考える。

