「居場所づくり」を仕事にしてきた自分が、職場で「居場所」を失って、考えたこと
この記事は、「居場所」に関する話でありながら、「転職」にまつわる私自身の経験談でもあります。新年度が始まり、間もなく1ヶ月。新しい環境に身を置いたものの、「こんなはずではなかった」「なんだかうまくいかない」と葛藤を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな方々に、転職後に苦戦した私の経験が少しでも参考になればと思い、恥ずかしさを覚悟で綴ります。
私の経験を語るうえで、ぜひ紹介したいのが『転職学』という一冊です。転職後の苦悩を乗り越えるヒントが詰まっており、私自身も何度もこの本を開いては、自分なりに試行錯誤を重ねてきました。まさに、私の転職期のバイブルとも言える存在です。
この記事では、自らの経験をベースにしつつ、『転職学』の内容も引用しながら、転職時に直面しやすい課題と、その乗り越え方のポイントを私なりに解説していきたいと思います。
志を持って飛び込んだのだが、
2022年、私は民間NPOの立場からこども家庭庁へ転職し、行政官として働くことになりました。民間時代には約10年間、東日本大震災の被災地や経済的困窮世帯の中高生を対象とした「居場所づくり」の現場に携わってきました。
そうした経験を踏まえ、こども家庭庁の新設とともに立ち上がった「こどもの居場所づくり」政策の担い手として、民間から採用されたのです。
任された役割は、「こどもの居場所づくり」に関する専門官。現場の知見を政策や施策に反映させ、国の方針を形にしていくポジションです。
当然、意気込んでいました。これまで培ってきた現場経験を活かし、子どもたちのためになる政策を実現しよう。自信と熱意を持って臨んだのです。
しかし、現実は甘くありませんでした。
国会議員からの急な呼び出しなど、突発的な業務が多く発生する職場環境に戸惑いました。その影響で、前もってスケジュールを立てにくく、まとまった業務時間を確保することが難しい状況が続いていました。
なかでも私を圧倒したのは、霞が関ならではの「文書文化」でした。民間時代とは比べものにならない膨大な文書の作成とやり取り、それに伴う緻密な情報管理、そして一つの文書を仕上げるまでに何度もチェックと修正を重ねる丁寧すぎるほどのプロセス。内容だけでなく、言葉の順番や表現の粒度にも気を配らなければならず、「ここまでやるのか」と驚かされる毎日でした。
そうした業務に向き合うなかで、「何を」「どうすればよいか」がわからない。いや、もっと深刻だったのは、「自分が何をわかっていないのかすらわからない」という感覚でした。未知のルール、暗黙の了解、目に見えない基準に、戸惑いと不安に苛まれていました。
さらに、中途採用ならではの壁にも直面しました。『転職学』には、まさにこんな一節があります。
世の中には、これまで中途採用をあまり行ってこなった、「中途採用慣れしていない組織」があります。(中略)そうした組織は譬えるならば、「外国人を一度も見たことがない住民が暮らしている村」のようなものです。そのような会社に転職した場合、転職者によく貼られるのは「異邦人」というラベルです。
長らく官僚として働いている同僚からしたら、「なぜこの人が?」「専門的な知識はあるのかもしれないが、行政官としてはどうなの?」そんな目で見られていたのだと思います。
行政組織において、民間人採用枠はまさに「異邦人」。
民間企業における中途採用比率が約50%であるのに対し、国の機関等における一般職国家公務員の中途採用比率はわずか17%。民間企業の約3分の1にとどまります。中途採用が一般的でないことに加え、民間の専門的知識を活かそうとする民間人採用は、稀な採用でした。
また、同時に中途採用には、「即戦力ラベル」となるものが貼られると、転職学では書かれています。
転職者が転職先の職場で周りの人からしばしば貼られるのは、「即戦力」というラベルです。(中略)この「即戦力ラベル」と過度な期待は、篆書者にとってあまり好ましいものではありません。このレッテル針には、「仕事についてあれこれ教えなくても、すぐに成果を出せる人」という意味が含まれており、「即戦力ラベル」を貼られた転職者は何かわからないことがあっても周囲に聞きづらくなる、ということが起こるからです。(中略)転職者を迎える職場の人たちは、そもそも「その転職者が、何をどこまで知っているのか」を事前にほとんど知りません。だからこそ、転職者のことを「お手並み拝見」のようなムードで迎えてしまうことが多いのです。
私自身もその期待の視線を感じていました。「民間から来たのだから、きっと何か違う視点を持っているはずだ」「即戦力として、すぐに結果を出してくれるだろう」と。中途採用が一般的ではない組織にとって、転職者はどこか“特殊な存在”として扱われる。その特殊性が、無意識のうちに孤立やプレッシャーを生むのだと思います。
特に、省庁の立ち上げ期は多忙を極め、まさに猫の手も借りたい状況でした。そうした中で、「この人を採用したのには理由がある」と周囲に納得してもらえなければ、存在意義すら問われかねない。だからこそ、より早く、目に見える成果を求められていると感じていました。
もちろん、職場の誰かに悪意があったわけではありません。あくまで私自身が、そうした重圧を(勝手に、そして敏感に)感じ取ってしまっていたのだと思います。
こどもの居場所づくりをしてきた自分が、
慣れない環境のなかで力を発揮できず、誰に何を聞けばいいのかもわからない。そんな日々が続くうちに、「職場に自分の居場所がない」という実感が深まっていきました。
「求められる役割を果たせていない(=存在意義が感じられない)」「人との関係が築けず、孤立している」。こうした感覚は、まさに“居場所がない”という状態に直結します。
私も、まさにそのような状況に置かれていたのだと思います。
私はこれまで、子どもたちの「居場所」をつくることを仕事にしてきました。さまざまな事情で居場所がないと感じる子どもたちのために、「居場所」と感じられる場をつくってきたはずの自分が、自分の居場所を失っていたのです。
「居場所づくりの専門官」に、居場所がない。
それは、皮肉でもなく、紛れもない現実でした。そして私の「居場所づくり」は、まず職場における自分自身の居場所をつくるところから始まったのです。
支えてくれた4つの関係性
職場での「居場所」はどう築けばよいのか、悩む日々が続きました。そのとき、ふと手に取ったのが、かつて読んだ『転職学』という一冊でした。そこで出会ったのが、「セルフ・オンボーディング」という考え方です。
「セルフ・オンボーディング」の前に、「セルフ」をとった「オンボーディング(On Boarding)」という言葉について、少し説明します。
オンボーディングとは「On Boarding」ですので、「ボード=組織や職場」にいち早く「のること=適応すること」をさした概念です。オンボーディングは「雇用流動性が高く、中途採用者を大量に受け入れ、また多くの既存メンバーが退出している企業」などで発達している、組織適応(組織社会化)施策です。たとえば、早期に仕事をはじめるためのツールキット、情報インフラ、オリエンテーションなどの施策をまとめて、オンボーディングとよばれたりします。
つまり、こうした環境整備を、職場側が行うのではなく、セルフ=自分自身で、能動的に行っていくこと、これが「セルフ・オンボーディング」です。
もっとシンプルに言えば、「職場に馴染む努力を、受け身ではなく、自分から始める」ということ。組織からの支援が乏しい場合でも、自ら必要な情報や人間関係を取りに行くことで、職場環境に馴染みやすくなり、結果として早期の活躍にもつながるのです。
『転職学』の中で、セルフ・オンボーディングを進めるために重要だとされていたのが、「4種類の支援者を自分の周りにもつこと」でした。この考え方に出会い、私は自分の職場適応の進め方を見直す大きなきっかけを得ました。

① セーフティ・ネット支援(精神支援)
まずは、感情的に安心できる人の存在です。「大丈夫だよ」「いつでも話聞くよ」と、どんな状況でも味方でいてくれる人。業務に直接関わるわけではなくても、メンタルの土台を支えてくれる存在は、転職初期の不安定な時期には欠かせません。
幸いにも民間から行政官に転身した似た境遇の同僚がいました。「私も同じだった!わかるよー」「なんかあったら言ってね」と言ってくれる同僚がいたことは、安心感につながり、自分メンタルの安定につながりました。
こうした関係の多くは、気軽にランチに誘えたり、仕事後に飲みに行くような仲間かもしれません。職場でなかなか言いづらい悩みや本音を打ち明けられる存在がいることは、まさに“セーフティ・ネット”があるということだと感じました。
② ネットワーク支援(人脈・知識の媒介支援)
職場の中で、自分にとって必要な人や知識に「つないでくれる人」も、非常に大きな存在です。転職直後は、人間関係がゼロからのスタートになることが多いため、だれに何を相談すればよいかもわかりません。そんなとき、「この件ならAさんに聞くといいよ」「ここの資料、参考になるよ」といった橋渡しをしてくれる人がいることは重要です。
私も、「この制度についてならこの人に聞いてみて」「この資料にまとまってるよ」と教えてくれる人を見つけられたたことで、必要な情報にスムーズにたどり着けるようになりました。
ネットワーク支援とは、単なる「知識」ではなく、「その知識が、どこにあるか・誰が持っているか」を教えてくれる「橋渡し」の存在です。こうした支援は、「組織の地図」を手に入れることを可能にしました。
③ フィードバック支援(内省支援)
自分の仕事ぶりについて客観的な視点でフィードバックをくれる人も必要です。 特に新たな環境では、特に新しい職場では、自分の判断軸と組織の期待との間にズレがあることも多く、「ここは良かった」「こうした方がよい」と具体的に指摘してもらえることで、方向性を修正しながら進めることができました。また、フィードバックを得ることで業務の質の改善はもちろん、自分自身の変化や成長に気づくことができます。
私の場合、行政の現場では文書を中心とした「文字のコミュニケーション」が基本で、いわゆる“霞が関文学”とも呼ばれる独特の言い回しや文体に戸惑いました。若手の同僚の方がその言語文化に慣れており、私はしばしば自分より若い同僚に文書を見てもらい、添削をお願いしていました。メールの文面ですら、初期には確認してもらっていたほどです。
正直、手間をかけさせてしまう申し訳なさもありましたが、文書作成は業務の中心でもあり、一刻も早く一人でこなせるようになる必要があると考えて、頼ることにしました。
また、上司からのフィードバックも積極的に取りに行くよう努めました。日常的にフィードバックを交わす文化が根づいているわけではなかったため、こちらから働きかけて評価や改善点をもらうことで、自分の業務を俯瞰して捉えることができるようになりました。
④ メンタリング支援(業務支援)
そして最後は、実務の中で直接的な指導や助言をしてくれる人です。仕事の進め方に迷ったとき、「このプロセスを踏むとスムーズだよ」といったアドバイスがあると、業務を一歩ずつ前に進めることができます。
いわゆる「職場の頼れる先輩」にあたる存在です。
私の場合、転職直後に政府主催の会議を設計・運営するという、前職では経験したことのない業務を担うことになりました。当然、進行や判断に迷う場面が多々ありましたが、都度相談できる存在がいたことは、心強い支えとなりました。
以上は私自身の事例の一部ですが、こうした4つの支援の視点を持って職場内の関係性を捉え直せたことは、大きな支えとなりました。漠然と「人間関係を築かなければ」と思うのではなく、「この支援は誰に担ってもらえそうか」と考えることで、必要な支援を意識的に受け取ることができたように思います。
4人すべてを最初から揃えるのは難しいかもしれません。1人が複数の支援を担うこともあれば、業務を通じて少しずつ関係ができていく場合もあると思います。
転職後に職場にうまく馴染めないとき、「自分に何かが足りないのかもしれない」と感じることがあります。けれど、足りないのは自分ではなく、支援のネットワークかもしれません。
だからこそ、「一人でなんとかしよう」と背負い込むのは禁物です。一人で頑張るだけでは、職場が「居場所」になることはないと、実感しました。
「居場所」は、人との関係性の中で生まれます。「居場所づくり」に長く関わってきた私自身も、その大切さを頭では理解していたはずなのに、いざ自分の身に起きた現実の中では、自ら居場所を築くことの難しさを痛感しました。
あらためてこの原点に立ち返ったとき、私は少しずつ、自分の「居場所」をつくっていくことにつながりました。
おわりに
今回ご紹介した私の経験は、いち体験談です。しかし、環境が変われば、誰しも自分の新しい「居場所づくり」に向き合うことになります。転職先の組織に馴染むこと、そこで自分の役割を見つけていくこと。それは、どんな職種・業種であれ共通する課題です。
新年度を迎え早くも1ヶ月が経ちました。新しい職場で悩んだり、立ち止まったりしている方にとって、私の試行錯誤が少しでもヒントになれば嬉しいです。
『転職学』に学んだ「セルフ・オンボーディング」の考え方は、単にスキルや業務知識の習得だけでなく、周囲との関係性をどう築くかという視点を含んでいます。つまりそれは、一人で抱え込まずに、人との関係性の中でどうやって職場に自分の「居場所」をつくっていくかに通ずるものだと思います。
長文にもかかわらず、お読みいただきありがとうございました。
それでは、また!
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