少しずつヘアメイクアップアーティストでタレントのIKKOこと豊田一幸に入れ替わっている。
近所の交差点近く、90年近く続いた靴屋が閉店した。
数日のうちに空いた店舗には買取専門店が入っていた。
またかよ、と思った。
隣町の商店街も、いつのまにか買取専門店だらけになった。
1つの商店街に買取専門店が4つや5つも存在している。
あまり評判の良くなかった焼き鳥屋はいつのまにか買取専門店になった。
変な高級食パン屋もすぐに廃れて買取専門店になった。
流行りのタピタカ屋だか鯛焼き屋だったか、そこもまた買取専門店になった。
もしかすると、この都市には"買取ヤドカリ"という怪異が存在しているのかもしれない。
町の小さな靴屋や服屋、パン屋や個人商店が無くなると、
まもなく目ざとい買取ヤドカリがやってきて生態系を作り上げてしまう。
一度買取ヤドカリが住み着いた町は、他の買取ヤドカリにとっても格好の餌場である。そこで買取ヤドカリ同士で激しい縄張り争いをする。
買取ヤドカリ達がダチョウ倶楽部とIKKOさんのパネルで陣取り合戦をしているうちに余波に巻き込まれて元々の生態系が破壊されてしまうのだ。
勿論、僕はイオンの出店に反対する商店街の皆さまではない。
都会のベッドタウンの商店街はすでにドラッグストアと牛丼屋だらけだ。
コロナ禍や物価高に耐えられなかった個人商店を不憫に思えど、
「寂しいけれどこれが新しい街の形かな。資本主義社会であるから仕方ない。」と思う部分もあった。
ただ、この買取ヤドカリの大繁殖は違う。
ドラッグストアや飲食店チェーンのように何かを提供して生み出す施設ではなく、価値ある遺産を回収して別の場所に送っている商売だ。
そんな場所が徒歩数百メートル圏内に何箇所も存在しているのは、
コンビニ同士が隣接しているより遥かに不気味だ。
それはここで繁殖しているのが「街の生活を支えるインフラ」ではなく、
地域に眠る栄養を吸い上げるだけの買取ヤドカリだからだ。
通常の店は、街にお金やモノを循環させる。
だからコンビニでもドラッグストアになっても仕方がないと言えば仕方がない。
しかし、買取専門店は高齢化していく地域から、価値ある過去の遺産だけを回収し、別の場所へ送る一方通行のポンプだ。
町のあちこちで血流が逆流している。
僕らの住む町に何らかの弁膜症が起こっている。
この前まで、無愛想な婆さんが腰を曲げながら野菜を売っていた場所で
容姿に優れ、誰も不快にさせないような清潔仕立ての若い店長が、
店前でニコニコとティッシュや名刺を配っていた。
昔ながらの商店街にピカピカのIKKOさんのパネルがまた1つ増えた。
今日もどこかの商店街で、野菜を売っていたおばちゃんが、
ヘアメイクアップアーティストでタレントのIKKOこと豊田一幸に入れ替わっている。
