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『箱入娘面屋人魚』あらすじ解説|山東京伝のトンデモ黄表紙

浦島太郎の後日譚。なんとお江戸のマーメイドが吉原で花魁に挑戦? 人魚なめで大儲け??


山東京伝が手掛けた中でも、とびきりトンチキでハチャメチャに楽しい作品。それが『箱入娘面屋人魚(はこいりむすめめんやにんぎょ)』という黄表紙です。

ザッパーン!いきなり漁師の舟に飛び込んできたのは顔は美女だが首から下は魚という人魚の化け物。漁師に嫁入りをせがみ、吉原の花魁となって働こうとするが…??? お江戸のトンデモ話が楽しすぎる山東京伝『箱入娘面屋人魚』

現在放送中の大河ドラマ「べらぼう」のオープニングにもこの作品の絵が使われているため、おそらく今後登場するのではないかと思われます。またべらぼうの主人公・蔦屋重三郎(蔦重)とも因縁が深い作品でもあり。

事前に予備知識を入れておきたい方、山東京伝や黄表紙について詳しく知りたい方はぜひご覧になってください。


✅ 黄表紙とは江戸時代のコミックともいわれる絵入り草紙。黄表紙について詳しく知りたい方は下記の記事をどうぞ👇

■ 『箱入娘面屋人魚』が現代語訳でまるっと全部読める本も!(記事末で紹介します)



『箱入娘面屋人魚』のあらすじ|お江戸のマーメイドが花魁に挑戦!?

山東京伝作・画。

浦島太郎が浮気!鯉との間に生まれた人魚の娘

竜宮の世界で乙姫に飽きた浦島太郎。鯉の遊女と浮気をして、死ぬの死なないのどう料理しようだの煮られようだのという抜き差しならない仲に…!


乙姫様と結ばれた浦島太郎。しかし、竜宮の世界にも遊廓があり、ここで美しい鯉の遊女と浮気してしまいました。

その鯉との間に生まれたのが人魚の子。もし不倫が乙姫の父である竜王にバレればわが身どころか子供の命も危ない。そこでかわいそうにも人魚の子は波のはざまに捨てられてしまいます。

さえない漁師の舟に突然飛び込む化け物とは

突然舟に飛び込んできた化け物(人魚)にびっくりする平次。

さてそこから月日が経ち、年配ながら独り者の漁師の平次が品川沖で漁をしていると、その舟へ髪を乱した女が飛び込んできました。見ればなんと顔は美女だが首から下は魚!
そうその人魚は、十七、八の娘盛りに育った浦島太郎の娘だったのです。

その人魚は驚く平次に、
「どうぞあなたのお嫁さんにしてくださいな、抱いてくださいな」
といきなり迫ってきます。平次は、困惑しつつもまんざらでもなく承諾しました。


貧乏な夫を助けるため、吉原で花魁デビュー…!

スカウトしてきた遊女屋は、人魚であることがばれないようあれこれ細工をしますが…

しかし平次は貧乏で、店賃も滞納している有様。そこで人魚は吉原の遊女屋のスカウトに応じて、花魁になることを決意します。

人魚の文字を反対にして「魚人(うおんど)」という名で着飾ってデビューしますが、初日に床に入ったお客さんから「生臭い!」などと恐れられて大失敗!


博物学者のアドバイスで、人魚なめが大流行り!

人魚を舐めれば若返ると聞いて、たくさんの人が押しかけます。ひとなめ一両一分(10万円ほど)で大儲け!

花魁になるのはあきらめますが、平次の知り合いの博物学者から「昔から人魚を舐めた者は千歳の寿命を保つと聞く」とアドバイスをもらいます。出した看板が、「寿命の薬、人魚御なめ所」

やたら長生きしたがる人々が集まって、人魚をなめなめ。その舐め賃で大儲け。中にはこれを真似て、偽の人魚に化けようとして失敗する夫婦も現れるほど。

大金持ちになった平次は、自分の女房なので暇があればやたらと舐めていたら、気が付くと七つばかりの子供になってしまった。あまりに調子に乗った奴を「舐めすぎた奴」などというのはこのことからかもしれない、なんてネ。


平次は男盛りの年齢に、人魚は人間となってめでたしめでたし

父・浦島太郎、母・鯉(左の二人)が現れ、玉手箱をくれて男盛りの年齢にもどる平次(中央)、鱗がむけて人間に戻る人魚の娘(右)

最後は人魚の父である浦島太郎と鯉が現れて玉手箱をくれたので、平次は子供からちょうど男盛りの三十一歳ほどに。人魚のほうも、若い男たちにモテてちょっかいをかけられたせいか、一皮むけるように鱗が脱げ落ちました。

こうして幸せに暮らしているのが、ほら、この作者・山東京伝の隣に住んでいる夫婦なんですよ。ということで、めでたし、めでたし。

✅ 黄表紙は正月に売り出されるもの。なので、どんな作品も必ず「めでたい」で締めるのがお決まりなのです。



『箱入娘面屋人魚』の見どころ解説|蔦重の懇願、中洲新地の見世物、おバカなエロス…


実は蔦重が頼み込んで作った作品|京伝はしぶしぶ書いた?


版元である蔦屋重三郎(蔦唐丸)自らが冒頭に登場して「まじめなる口上」を述べる。

この作品でまず注目すべきは、最初のページ。
登場して平伏しているのは、版元の蔦屋重三郎(狂歌名・蔦唐丸)です。

ここには、<最近京伝が世間から悪い評判を受けたので二度と戯作を書かないと言ったけれども、それでは私たちの商売が成り立たないのでなんとか書いてもらいました>という本作の制作にまつわる説明が書かれています。

実は、寛政元年(1789)に、石部琴好作の『黒白水鏡』という作品が絶版となり、絵を担当した京伝も罰金刑を受けたとされます。

<大意>
作者の山東京伝は、世の中に悪い評判を受けたのでこれを深く恥じ、二度と戯作は書かないと私どもへも固く申し伝えておりました。しかし京伝の作品は人気があり、私どもはそれでは商売が成り立たなくなってしまいます。ぜひ新作を書いてほしいと頼んだところ、旧知の蔦屋さんですからと固い心を曲げて新作を書いてくれました。そこで皆様、どうぞ本作をご覧いただき、お買い求めくださいますようお願い申し上げます。

ただし、べらぼうの考証を務める鈴木俊幸氏によれば、「黄表紙『黒白水鏡』の画工を務めたことで詮議を受けたとする説はあるが、そのことを証する資料は無い。具体的に何のことを言っているのかわからないが、いずれにしてもいやな噂が流れたのであろう」とのこと。

いずれにしろ、京伝は戯作の筆を折ろうとしていたけれど、それを蔦重が頼み込んでなんとか書いてもらった。

それがこの京伝の作品の中でもとびきり荒唐無稽で楽しい作品だった、ということがまた面白いですよね。



幻の歓楽街・中洲新地|当時の見世物の様子が手に取るようにわかる!

人間界と同じように、幟を立てて客寄せの口上をする見世物小屋の様子。

浦島太郎が鯉の遊女と遊んだのは、竜宮にある盛り場。
そのモデルとなったのは、江戸時代の安永四年(1775)~寛政元年(1789)までのたった14年ほどの間、江戸随一の歓楽街として隅田川の中洲に存在した「中洲新地(なかずしんち)」です。

現代では知る人も少なく、短期間で消えた幻の歓楽街などと呼ばれますが、その中洲新地には飲食店のほか見世物小屋がたくさんあることでも有名でした。

その様子を垣間見ることができる絵と文が、竜宮の海の生き物たちに絡めて、この『箱入娘面屋人魚』に登場しているのです。

<大意>
竜宮の支配するところとなった中洲は、見世物・芝居・水茶屋・楊弓場などをしつらえて、かつて歓楽街だった賑わいにまったく引けを取らず繁盛している。
海馬の曲乗り飛び魚の綱渡り蛤(はまぐり)が蜃気楼を吐く見世物蛸の八人芸など、様々な趣向を凝らして銭をせしめようと店がひしめきあう。

海馬の曲乗り=馬に乗って歌舞伎の所作などを披露する「曲馬」のこと。
飛び魚の綱渡り=曲芸として、綱渡りなどアクロバットな芸も多く行なわれていた。
蛤が蜃気楼を吐く見世物=蝋燭を使った幻灯機のことか?
蛸の八人芸=「八人芸」といって一人で八人分の楽器や声色を使う芸があった。ここでは蛸の足の数とかけているのも面白い。

当時の見世物小屋が立ち並ぶ賑わいを想像させる、とても楽しい描写です。

✅実は私は江戸時代の見世物も大好き。下記のマガジンに江戸の見世物について書いた記事をまとめていますので、ご興味ある方はご覧ください。👇


バカバカしいエロティシズム|若返りを求めてぺろぺろ

次々と大金をはらって若返るために人魚を舐めにくる人々。後ろの平次は「拍子にのって舐めまんしょ!」とはやし立てている。人魚の娘は「あらあなた口が臭いわね」なんてほやいている…笑

やはりこの作品の一番のインパクトは、人魚の姿でしょう。

顔は、当時の女形の人気役者に紅おしろいをぬりたくったように美しいという人魚の娘。しかしその首から下は魚の姿。魚だけにギョッとする見た目ですが、その想いは夫一途でけなげなもの。

読み進めていくうちに、なんだかこの姿がかわいく、そしてエロティックにすら思えてくるから不思議です笑


✅そのほか、ミニ知識。釣り舟平次のモデルは、実際にいた釣舟清次という男。この清次という男は、「舟に現れた大男に鱚(きす)をふるまったら、その男は疫病神でお礼にこのお札を貼っておけばその家へは入らないといわれた」といってお札を配っていて、当時流行していたそうです。


山東京伝の傑作黄表紙『箱入娘面屋人魚』まとめ

以上、山東京伝のあらすじと解説を紹介しました。

<あらすじまとめ>
浦島太郎が鯉の遊女と浮気して生まれた人魚の娘が、漁師・平次の舟にザッパーンと登場。 貧乏な平次を助けるため吉原で花魁デビューを試みるが「生臭い!」などとバレて大失敗。博物学者の助言で「人魚なめ」が大流行し、ひとなめ一両一分で大儲け! 最後は平次が若返り、人魚も人間になってめでたしめでたしとなりましたとさ。

大河ドラマ「べらぼう」でも、きっと登場するのでは?と今から楽しみにしています。

寛政の改革で、恋川春町や朋誠堂喜三二が戯作界から去ってから、黄表紙人気はぐっと山東京伝の肩にかかってきます。とはいえ、これからが心配でもあり……。
今後の京伝とその作品に、ぜひ注目していきましょう!


✅山東京伝や恋川春町たち、人気作家の黄表紙のあらすじ・解説はほかにもたくさん書いています。ご興味ある方はこちらのマガジンへ。👇



参考文献
『江戸戯作草紙』棚橋正博(小学館)
『蔦屋重三郎』鈴木俊幸(平凡社)
『江戸の見世物』川添裕(岩波書店)
山東京伝『箱入娘面屋人魚』画像
すべて国立国会図書館デジタルコレクションより



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