大河べらぼう鑑賞◆「鯛の味噌吸に四方の赤」お江戸のダジャレ・地口の魅力
大河ドラマ「べらぼう」。
第五話が放映されました。
前回は、鱗形屋から仲間のうちで認められた者しか「版元」にはなれないという決まりがあると、関係者へのお披露目の席でいきなり梯子を外されてしまった蔦重。
駆けずり回ってアイデアをだしてカタチにしていった経過を知るだけに、見ているこちらも「鱗形屋め、やりやがったな、こんちくしょう…!(江戸っ子風)」と悔しさしきり。
今回は、それならどうやったら自分は「版元」になれるんだろうと、蔦重が平賀源内や、書物問屋の須原屋などにヒントをもらい、再び動き出そうと欲を出すという流れでしたね。
そのほかに今回も見所たくさん。
平賀源内の「我が侭に生きるのが自由に生きるということ、だからキツイのは当たり前」という言葉が、私のようなフリーランスには胸にぐいーんと響きます。
源内と田沼意次が興奮しながら未来を語りやがて先が見えすぎるがゆえに失望するシーンもいい。
そしてぼーっとしているようで見るべきところはちゃんと見ている蔦重の義兄も。
唐丸に直接詰め寄るのではなく、あくまで自分の数え間違えだろうかというやんわり逃げ道を残してあげて、唐丸がそっと戻してくれたなら気のせいだったと不問にするはずだったのかも、と思えて、この義兄、私的に気になる人物に急上昇中。お気楽なお坊ちゃんと見せかけて、とても賢くて繊細な性質なのかもしれませんね。
そして唐丸ーー!
あんなに小さい子を脅して金を持ち出させるなんて、あのやさぐれ浪人は一体どういう了見なのでしょうか。ハァ?
唐丸はどの絵師になるのかというのも気になりますが、ともかく今は無事を祈るしかありません。
お江戸のダジャレ・地口の魅力
お江戸の地口(じぐち)とは?
さて、ドラマの面白さに魅了されて、前書きが長くなってしまいました。
このドラマの魅力の一つとして、私はたくさんの「地口」が出てくるところを挙げたい。
地口とは、一般的によく使われる言葉をもじったり、韻を踏んだりする言葉遊びのことです。蔦重がよく口にしている「ありがた山の寒がらす」「かたじけ茄子」などがそれ。
ちょっと古いですが、「当たり前田のクラッカー」とか、最近なら「やばたにえん(やばいと永谷園をかける)」、「了解道中膝栗毛(了解と東海道中膝栗毛をかける)」なんて言葉が一瞬流行ったりしましたね。
そして今回第5話では、「鯛の味噌吸(みそず)」、「四方の赤」という地口も出てきました。
こういった地口を使うのは、今の私たちが流行りの言葉を使うのと一緒。「今の流行わかってるね」「流行感度が高いね」という合図にもなっていて、これを楽しむのが粋な江戸っ子、通な大人の証拠というわけです。
地口を擬人化した黄表紙もあり
安永4年(今のドラマ内の時代から1年ほど後)以降に大流行する絵入りの絵草子・黄表紙(not エロ)にも、なんと流行の地口が化け物となって、版元や画工、彫師摺師の職人たちに襲い掛かるというトンデモ物語があります。
黄表紙にはこういった流行のダジャレ、言葉遊びが書かれているのが楽しくて人気が出たのですが、当の地口たちが「俺たちのせいで版元は儲かっているのに茶の一杯も出さないとはおかしい」と怒ってしまったというのです。
それが恋川春町の「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらしいのね)」という作品。
ここには、ドラマ内に出てきた「鯛の味噌吸」と「四方の赤」など、たくさんの地口が出てきますので、その地口たちを紹介してみましょう。

「鯛の味噌吸」に「四方の赤」とは?
「鯛の味噌吸」も「四方の赤」も、どちらも当時人気だった日本橋の和泉町の酒屋・四方久兵衛(よものきゅうべえ)というお店に由来します。
久兵衛のお店で販売していた銘酒が「瀧水」。また「赤味噌」(四方の赤)も評判で、居酒屋もはじめた際にこの赤味噌で作ったと思われる「鯛の味噌吸(味噌和え)」を出したところ、これまた大好評。
そこで、「四方の赤(味噌)」や「鯛の味噌吸」といえば、「一杯飲む」ことを指すようになりました。
ドラマ内でも、蔦重は「四方の赤に鯛の味噌吸、飲めや歌えやチンドンチンドン」と言っており、まさに「飲む」という意味合いで使っていますね。
※先程の画像のシーンは、彫師が「鯛の味噌吸」に大きな椀に投げ込まれ、その上から「四方の赤」の化け物によって「瀧水(たきみず)」を浴びせられているというシーン。彫師は「版木師」ともいい、障子には「はんぎし」の文字が。本文には「これがほんとの版木(難儀)屋だ」なんて書かれています。
そのほかの地口も紹介
ほかにも「辞闘戦新根」にはこんな地口が出てきます。
大木の切り口太いの根/太い→図々しい
どらやき・さつま芋/うまい
一杯飲みかけのかんがらす/一杯飲む
放下師の小刀吞み込み印/放下師(大道芸人)が行う小刀を呑む芸から、了解した、合点した
ならずの森の尾長鳥/だめだ、できない
天井見たか/わかったか
とんだ茶釜/あてが外れた、驚いた
ちなみに、「とんだ茶釜」についてはこんな話があります。
鈴木春信の絵にも描かれた、笠森お仙。彼女は谷中の感応寺・笠森稲荷の茶屋・鍵屋で働いていた茶屋娘でした。あまりに美しいので客は面と向かって「よい女だ」とも言えず、茶屋だけに茶釜になぞらえて「とんだ茶釜」と言い出したことから、美女を見かけると「とんだ茶釜」というように。
しかし、お仙が茶屋を辞めてしまった後、店を訪れるとそこには美女はおらず頭の禿げあがった親父が店番をしていたので、「とんだ茶釜が薬缶に化けた」と、がっかり、苦笑まじりに言われるようになったそうです。
✅今回紹介した『辞闘戦新根』という作品ほか、黄表紙の名作が読める!当時のレイアウトそのままに現代語訳した「黄表紙のぞき」はこちら👇
おわりに
今も昔も言葉遊びは面白い。
おそらくこれから、大河ドラマ「べらぼう」には上記の地口もきっと出てくる…はず!たぶんね。
最後までお読みいただいたあなたは、立派な地口マスター。
登場人物の言葉遣いにも気をとめてみると、さらにべらぼうの世界が楽しくなることでしょう◎
参考文献/「むだとうがちの江戸絵本」小池正胤ほか(笠間書院)ほか
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