恋川春町『鸚鵡返文武二道』あらすじ解説|寛政の改革を茶化しまくる!
戯作者・恋川春町を破滅へと追いやることになった黄表紙作品。
それが『鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)』という作品です。
大河ドラマ「べらぼう」にも登場しますが、恋川春町はこの作品によって松平定信の呼び出しを受けることに…。
一体この作品のどこが幕府の禁忌に触れたのでしょうか?
この記事では、『鸚鵡返文武二道』のあらすじや見どころを深堀りして紹介します。
また次の記事では、<寛政の改革や絶版となった理由>を探ります。2記事連続で、『鸚鵡返文武二道』と恋川春町について深堀りしていきますので、お楽しみに。
✅ 黄表紙とは江戸時代のコミックともいわれる絵入り草紙。黄表紙について詳しく知りたい方は下記の記事をどうぞ👇
■ 『鸚鵡返文武二道』が現代語訳でまるっと全部読める本も!(記事末で紹介します)
『鸚鵡返文武二道』のあらすじ|愚かな武士の勘違い…!

■ 恋川春町作、北尾政美(鍬形蕙斎)画。
時代は醍醐天皇の御代。太平の世が続いたので人々が贅沢にふけるようになったのを嘆いた天皇は、自ら高価な着物を脱ぎ捨て粗末な綿の衣を着て、質素倹約の模範を見せます。
また、菅原道真の怨霊が雷となって多くの高官を殺してしまったため、朝廷は役人不足に。そこで、道真の子、菅原敦茂(以後、菅公と表記)に政治を任せることにしました。
しかし、今いる役人たちはいずれも道真の仇敵の親族ばかりで使えない。よって時代を超えて、剣術は源義経、弓術は鎮西八郎、馬術は小栗判官(伝説上の人物)を呼び出し、身分を問わず指導して才ある者を取り立てるように命じます。
義経、鎮西八郎、小栗判官らはそれぞれ武士たちに稽古をつけますが、しかし、当の武士たちは本来の武を鍛える意味を理解せず、勘違いにもほどがある迷惑行為ばかり。
往来の人々をやたらと木刀でたたいたり、店の商品を射抜いたり、遊女にまたがって馬の稽古をしてみたり…。
あまりにバカバカしい町の騒ぎに、天皇は菅公を呼び出し再び相談。武芸も大事だが『勇を好んで学を好まざればその弊や乱なり(武芸だけ鍛えたおバカさんは乱暴になるだけ)』であると言われた菅公は、ごもっともです、と大江匡房という学者を呼び出し、文章博士に。
そして、菅公は「最初から漢籍ばかりの難しい本では皆は大変だろう。私が『秦吉了の言葉』という本に天下国家を治める心得を書いたから、これを学校(湯島聖堂)で講釈してください」と伝えました。
✅ 秦吉了とは鸚鵡や九官鳥の異名。
文章博士・大江は、『秦吉了の言葉』を元に日々講義。その本の中には「天下国家を治めるとは、(風を得て勢いに乗る)凧あげのようなものだ」と書いてあるので、それを「凧を上げれば天下国家が治められる」と勘違いをした武士たちは、我も我もと凧を上げだしました。
すると凧を友達だと誤解して、本物の鳳凰が飛んできたのです。鳳凰は瑞兆でめでたいと、見世物にして広く人々に見せることにしましたとさ。めでたしめでたし。

✅ 黄表紙は正月に売り出されるもの。なので、どんな作品も必ず「めでたい」で締めるのがお決まりなのです。
『鸚鵡返文武二道』の見どころ解説|寛政の改革をおちょくりまくる!
あらすじを読んでピンと来た方もおられるでしょうが、これは当時行なわれた松平定信の<寛政の改革>をおちょくりまくった作品です。
田沼意次から松平定信へ政権が移ったことを暗示!

上図の右下は、大平の世が続き、贅沢にふけるようになった人々を戒めるため、醍醐天皇自ら豪華絢爛な御衣を脱ぎ、粗末な綿の衣に着替えられているところ。これは寛政の改革の倹約令を思わせます。醍醐天皇は、当時の将軍・徳川家斉のことでしょう。
また、菅原の道真によって殺されたという高官たちは田沼意次を、そして道真の子で秀才の誉れ高かった菅原敦茂は、松平定信を暗示。つまり田沼派が追い落とされ、政権が定信に移ったということを表しています。
真意を解さず、表層で騒ぎたてる武士たち



現代の会社やSNSでも、文脈を読めない、本質を理解しない…なんてうんざりする声がよく上がりますが、ここに描かれるのも幕府のお触れの意味を全く理解せず、表層だけで騒ぎ立てる武士たち。そしてそれをうまく制御できず正論ばかり掲げる幕府をからかっているかのようです…。
『秦吉了の言葉』は松平定信を暗示

作品の中には、菅公が書いた『秦吉了(鸚鵡の異名)の言葉』という書が出てきます。
実は、『鸚鵡返文武二道』の序文にも、こうあります。
<大意>
古代中国の礼儀作法を記録した「曲礼(きょくらい)」には、「鸚鵡はうまく言葉を話すが所詮は鳥であって人間ではない」、「遊女はおしゃべりがうまいが論理的に話しているのではない」という。私(作者・春町)も絵草子を書いているといっても、他人の真似をしているにすぎない。鸚鵡に似た九官鳥のたぐいであろうか、などと思う次第である。
さて、実は史実の松平定信は『鸚鵡言(おうむのことば)』という書を書いているのです。
✅ 下記で写本を読むことができます👇
学問について、政治についてなど、定信が理想とする「こうあるべき」という教えが書かれています。
出版はされていませんが、当時の人はさかんにこの教えを書き写して読んでいたとか。当時の意識高い系武士の流行りだったんでしょうね。
ということで、すでに序文から、いやタイトルから定信を暗示してからかっている―—ということなんですネ。
✅ タイトルの『鸚鵡返』には、前年に刊行された喜三二の『文武二道万石通』のパロディ(鸚鵡返し=物真似)という意味と、定信の『鸚鵡言』の二重の意味がかかっています。
おわりに(次回は寛政の改革と春町の最期を解説!)
以上、恋川春町作『鸚鵡返文武二道』のあらすじと解説を紹介しました。
とんでもなくふざけている作品のようで、タイトルや序文、内容に至るまで巧妙な仕掛けがあるということがお分かりいただけたかと思います。
当然この仕掛けは当時の人には一目瞭然だったことでしょう。その証拠に、この作品は前年に出版された朋誠堂喜三二作の『文武二道万石通』と同じく大ヒットとなります。
しかし大ヒットになったがゆえに春町の身に悲しい出来事が…。
次回の記事では、史実の寛政の改革で騒ぎ立てる武士たちの姿や、これらの作品が絶版となって作者に意外な圧力がかかった理由、そして春町の衝撃の運命について紹介したいと思います。
■次回の記事はこちら👇
『鸚鵡返文武二道』と寛政の改革|絶版と春町の衝撃の運命
参考文献
「江戸の戯作絵本(三)」(社会思想社)
「蔦屋重三郎」鈴木俊幸(平凡社)
「江戸の出版統制」佐藤至子(吉川弘文堂)
恋川春町作『鸚鵡返文武二道』画像
すべて国立国会図書館デジタルコレクションより
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