「上司が苦手」で消耗するあなたへ。上司を“人格”じゃなく“機能”で見たら、心がふっと軽くなった話
「あの上司、苦手だなぁ」
「なんで、あんな言い方するんだろう」
「正直、合わないな……」
もし今、あなたがこんなふうに感じているなら、まず最初に伝えたいことがあります。
その気持ち、すごく自然です。 あなたが心がせまいわけでも、社会人として未熟なわけでもありません。
実際、仕事のストレスを感じている人はとても多いです。厚生労働省の調査(令和5年)では、いまの仕事に強い不安やストレスを感じている人は、なんと 82.7%。そしてそのストレスの中身を見ると、「対人関係(パワハラ・セクハラを含む)」がおよそ 3割(29.6%) をしめています。とくにパートで働く人では、それが36.0%まで上がります。
つまり、上司や同僚との関係でモヤモヤしているのは、あなただけじゃない。たくさんの人が、同じところでつまずいています。
でもね。その気持ちを「自然なもの」として認めたうえで、もうひとつだけ知っておいてほしいことがあります。
そのモヤモヤを、そのまま放っておくと、どんどん消耗してしまう ということです。
苦手な上司のことを考えるたびに、心がすり減る。家に帰っても思い出してしまう。だんだん「自分はダメなのかも」と思えてくる——。これは、あなたの能力の問題ではありません。「見方」の問題です。
この記事では、わたしが知って心がふっと軽くなった、たったひとつの考え方をおすそ分けします。
それは——上司を「人格」ではなく「機能」として見る、という方法です。
ヒントをくれたのは、元・日本マイクロソフトの役員で、いまは働き方改革を支援する会社クロスリバーの代表をされている越川慎司さん。AIで「成果を出し続ける上位5%の社員」を分析した『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』などの著者です。その越川さんが、音声メディアでこの考え方を話していて、「あ、これは多くの人が楽になるな」と思ったんです。
先に結論を言いますね。
上司は、変えられません。上司を選ぶこともできません。
でも、上司の「見方」と「使い方」は、あなたが選べます。
ここに気づくと、肩の力がスッと抜けます。では、ゆっくり一緒に見ていきましょう。
なぜ「苦手な上司」で、こんなに消耗してしまうのか

まず、「どうしてこんなに疲れるんだろう?」というところから。
苦手な上司がいると、わたしたちはついこう考えます。
「あの人、性格が悪い」
「人として尊敬できない」
「なんか、ぜんぶ嫌」
気づきましたか? これ、全部 「人格」へのジャッジ なんです。相手の“人となり”をまるごと評価して、「good or bad」のラベルを貼っている。
人間には、ものごとに対して2つの考え方のモードがあると言われています。心理学者のダニエル・カーネマンが広めた、「速い思考」と「遅い思考」という考え方です(わかりやすく「システム1」「システム2」と呼ばれます)。
速い思考(システム1): パッと反応する、感情的で自動的なモード。「ムカッ」「感じ悪い」「何あれ」は、ぜんぶこれ。
遅い思考(システム2): 落ち着いて考える、論理的なモード。「この人は何に反応するんだろう?」「どう伝えれば届くかな?」と考えるのがこちら。
※「システム1/2」は、頭の中に2つの装置が物理的にあるという話ではなく、思考のクセを説明するための“便利なたとえ”です。学者のあいだでも「単純にしすぎ」という意見もあります。ここでは、わかりやすい目安として使いますね。
苦手な上司の前で、わたしたちはたいてい 「速い思考」だけ で反応してしまいます。「ムカッ」が来て、そのまま「この人ダメだ」と決めつける。
そして、ここからが消耗のいちばん怖いところ。
「この上司じゃダメだ」と思った瞬間、わたしたちは、自分が成果を出すスイッチまで、自分で切ってしまう んです。
「どうせこの人に言っても無駄」
「がんばっても認められない」
そう思った時点で、もう前に進めなくなる。相手のせいで止まっているように見えて、実は 自分の「見方」が、自分の手足をしばっている。これが、苦手な上司で消耗するときに起きていることの正体です。
ここで大事なのは——「速い思考」で反応してしまう自分を、責めないこと。それは人間として自然な反応です。問題は反応そのものではなく、そのあと「遅い思考」に切り替えられるかどうか。会社で成果を出し続ける人は、ここの切り替えが上手なんです。
発想の転換 ― 上司を「人格」ではなく「機能」で見る

では、どう切り替えるのか。
ここでこの記事のいちばん大事な考え方が出てきます。
上司を「好きか・嫌いか」で見るのをやめて、「どんな機能を持っているか」で見る。
……と言われても、ピンとこないですよね。越川さんが使っていた、とてもわかりやすいたとえを紹介します。
エアコンの話です。
あなたの部屋にあるエアコン。それを見て、「このエアコン、なんか感じ悪いな」とは思わないですよね。「この形、気に入らない」と腹を立てることも、まずない。
エアコンに対して、わたしたちは自然とこう考えています。
「どう使えば、快適になるかな?」
寒い日は暖房。暑い日は冷房。好きか嫌いかじゃなくて、「どう使うか」だけを考えている。 これが「機能で見る」ということです。
そして越川さんは言います。上司も、これと同じなんですよ、と。
仕事の場での上司は、いくつかの「機能」を持っています。たとえば——
意思決定する機能(GOかNOGOかを決める)
承認する機能(ハンコを押す、許可を出す)
情報を持ってくる機能(上の方針や他部署の動きを知っている)
他部署とつなぐ機能(横のパイプ役)
こう並べてみると、見え方が変わってきませんか?
上司は、あなたの感情をぶつける相手ではなく、「仕事を前に進めるための装置」 なんです。装置。マシン。そう捉えると、いちいち感情で消耗しなくてよくなる。
ここで起きているのは、ただの気休めではありません。「前提の置き換え」です。
これまであなたが立っていた前提は、こうでした。
「合わない上司はつらい相手。なんとか好きになるか、ガマンするしかない」
それを、こう置き換えます。
「上司は感情の相手ではなく“機能”。好きになる必要はなくて、使いこなせばいい」
前提が変わると、土俵が変わります。「上司を好きになろうと戦う」のではなく、「上司という道具をどう使うか考える」へ。戦いから、工夫へ。 これだけで、心の負担がまるで違ってきます。
「機能で見る」は、心理学的にも理にかなっている

「でも、それってただの気持ちの持ちようでしょ?」
そう思った人もいるかもしれません。だいじょうぶ、ちゃんと裏づけがあります。
「相手の見方を変えて、気持ちをラクにする」——これは心理学で 「認知の再評価(リフレーミング)」 と呼ばれる、れっきとした方法です。スタンフォード大学のジェームズ・グロス教授たちが長年研究してきたテーマで、ざっくり言うとこういう考え方です。
「出来事そのものが感情を生むのではない。その出来事を“どう受け取るか”が、感情を決めている。」
同じ「上司に話をさえぎられた」という出来事でも、
「感じ悪い! 失礼な人!」と受け取れば → イライラ
「この人は、結論を先に知りたいタイプなんだな」と受け取れば → 落ち着いて対応できる
受け取り方を変えれば、わいてくる感情も変わる。これが認知の再評価です。
しかもこの方法、ただの精神論ではなく、効果がいちばんよく確かめられている感情のコントロール法なんです。研究では、「ぐっとガマンして感情を抑え込む」やり方よりも、「受け取り方を変える」やり方のほうが、心の健康や落ち着きなど、ほぼすべての面で良い結果が出ています。脳を調べた研究でも、受け取り方を変えると、感情の暴走をつかさどる部分(扁桃体)の活動がしずまることがわかっています。
つまり、「上司を機能で見る」のは、気休めどころか、科学的にもいちばん筋のいいストレス対処法だということ。
ここで、ひとつ大事な補足を。
「機能で見る」と聞くと、「相手を物みたいに扱う、冷たい人になるってこと?」と心配になるかもしれません。でも、ちがいます。越川さんもはっきり言っています。これは冷たくなることでも、ドライになることでもない。むしろ、自分を守るための技術なんです。
相手の機嫌に振り回されない。たった一言で「自分はダメだ」と落ち込まない。そのための、やさしい護身術。そう思ってください。
見方が変わると、「伝え方」が変わる

上司を機能で見られるようになると、うれしいおまけがついてきます。
「伝え方」が変わって、仕事がスムーズに進むようになる んです。
たとえば、あなたの話をすぐにさえぎる上司がいるとします。「速い思考」のままだと、「感じ悪い」「人の話を聞かない」で終わってしまう。
でも、機能で見るとどうでしょう。
「この人は、こまかい背景より、結論を先に処理したいタイプの“意思決定装置” なんだな」
そう捉えられると、自然と伝え方が変わります。
「結論は、A案です。理由は2つあります。リスクはすでに対策ずみです。」
これだけで、話の通りやすさがぐっと上がります。
ここがおもしろいところなんですが——あなたは アイデアそのものを変えたわけではありません。変えたのは「入力」、つまり 伝え方・資料の書き方・出すタイミング だけ。中身は同じなのに、相手に届く確率がまるで変わる。
これは、上司にこびているのではありません。相手の「機能」に合わせて、こちらの入力を設計しているだけ。 プロの仕事のしかたです。
そしてもうひとつ、越川さんが「成果を出し続ける人」に共通すると話していたのが、「観察」 でした。
その上司が何に反応するのか。数字なのか、スピードなのか、リスクなのか。どんな言葉がNGワードなのか。さらに言えば、その会社で“流行っている言葉”や、社長が朝礼でよく使うキーワードまでメモする人もいるそうです。それはつまり、相手をちゃんと観察しているということ。
相手が数字に反応するタイプだとわかれば、あなたが数字で話してみる。すると、相手の反応が返ってくる。その反応を見て、また調整する。この小さな実験のくり返しが、仕事をラクにしていきます。
今日からできる、3つの一歩

ここまで読んで、「考え方はわかった。で、何をすればいいの?」と思いますよね。
越川さんが挙げていた、今日からできる具体的な3つを、わたしなりにまとめます。どれも、お金もいらないし、5分あればできることです。
① 苦手な上司の「機能」を、紙に3つ書き出す
頭の中だけで考えていると、モヤモヤはずっとモヤモヤのまま。ぐるぐる回って、整理されません。
だから、書き出す。 これは心理学でも効果が確かめられている方法で、悩みを紙に書き出すと、不安や緊張がやわらぐことがわかっています。
ポイントは、デジタルより、紙のほうがおすすめということ。手で書くと、頭の中のものが目の前に「外に出る」感覚があります。
書く内容はシンプルです。「この上司は、どんな機能を持っているか」を3つ。
承認する機能?
調整する機能?
情報を持ってくる機能?
書き出すだけで、「あの人」が「あの人という名前のついた、ただの感情の塊」から、「いくつかの機能を持った仕事の道具」に見えてきます。
② その上司が「何に反応するか」を観察する
次の1週間、その上司を“観察対象”にしてみてください。
数字を出すと、機嫌がいい?
スピードを上げると、評価する?
リスクの話に、敏感に反応する?
逆に、これを言うと不機嫌になる、というNGワードは?
観察する、というスタンスに立つと、不思議なことに、感情的に巻き込まれにくくなります。「うわ、また怒ってる(イヤだ)」ではなく、「お、この人はここに反応するんだな(メモメモ)」と、一歩引いて見られるようになる。
③ イラッとしたら、ひと呼吸の「間」を置く
それでも、感情がわいてしまう瞬間はあります。人間だもの。
そんなときは、ほんの少しだけ「間」を置く。越川さんは「10秒」と言っていました。よく「6秒待て」とも言われますね。
※「6秒」や「10秒」という数字に、きっちりした科学的な根拠があるわけではありません。怒りの強さや続く時間は人によってかなり違います。大事なのは秒数そのものではなく、「カッとなった直後に、ほんの少し“間”をはさむ」という考え方です。その数秒で、「速い思考」から「遅い思考」へ切り替わりやすくなります。
間の置き方は、なんでもOK。
いったん立ち上がる
水を飲む
トイレに行く
深呼吸する
越川さんは「これは、と思ったときは、トイレに行っちゃう」と話していました。行きたくなくても、一回その場を離れて冷静になる。それくらいゆるくていいんです。
今日からのチェックリスト
苦手な上司の「機能」を紙に3つ書き出す
その人が何に反応するか、1週間観察する(数字/速さ/リスク/NGワード)
イラッとしたら、立つ・水を飲む・深呼吸で「間」を置く
次の報告を「結論 → 理由2つ → リスクは対策ずみ」の形で出してみる
ぜんぶやらなくて大丈夫。まずは①の「機能を1つ書き出す」だけでも、十分な第一歩です。
ここだけは、勘違いしないでほしいこと

ここまで「上司を機能で見ると楽になる」という話をしてきました。でも、誠実にお伝えしたい“線引き”が3つあります。これを知らないと、かえってあなたを傷つけてしまうかもしれないので、しっかり書きますね。
① ハラスメントや不当な扱いは、「見方を変えるだけ」では解決しません
これがいちばん大事です。
暴言、人格否定、過度な叱責、明らかなパワハラ・セクハラ——こういう「不当な行為」は、あなたが見方を変えてやり過ごすべきものでは、絶対にありません。
そういうときに必要なのは、
起きたことを 記録する(日付・内容・言われた言葉)
社内の相談窓口や、産業医、信頼できる人に 相談する
場合によっては、異動や、社外の窓口(労働基準監督署など)に動く
ここで紹介した「機能で見る」は、あくまで“合わないけど不当ではない上司”と、消耗せずに付き合うための道具です。我慢を強いるためのものでは、決してありません。ここを取りちがえないでください。
② 機能で見るのが行きすぎると、心が冷たくなることもある
何でもかんでも「機能、機能」と考えていると、人間関係そのものが打算的で、つめたいものになってしまうことがあります。
越川さんも念を押していました。「機能で見るのは、冷たくなることじゃない」と。これは、あなたが消耗しないための“見方の選択肢”のひとつであって、すべての人間関係をそれで処理しよう、という話ではありません。心を許せる人とは、ちゃんと人として向き合っていい。
③ これは「万能薬」ではありません
正直に言います。今日紹介した方法は、誰にでも、どんな相手にも100%効く魔法ではありません。心理学のいろいろな方法も、効果はおだやかで、人や状況によって差があります。
でも、「楽になるきっかけのひとつ」には、きっとなります。今までと違う見方を、ひとつ持っておく。それだけで、明日の景色が少し変わるかもしれない。そのくらいの気持ちで、気軽に試してみてください。
おわりに ― 好きにならなくていい。使いこなせばいい
最後に、もう一度。
上司は、変えられません。上司を選ぶこともできません。 いわゆる「上司ガチャ」は、たしかにあります。
でも、上司の「使い方」は、あなたが選べます。
そして、ここに気づける人は、仕事が一気にラクになって、成果も出しやすくなります。なぜなら、どんな上司でも、どんな同僚でも、どんなお客さんでも対応できる「しなやかさ」が手に入るから。この、しなやかさこそが、消耗せずに成果を出し続けるための、いちばんの仕組みなんです。
上司を好きになる必要は、ありません。ほっぺたをすり寄せるほど仲良くなる必要も、まったくない。
でも、上司を「使いこなす」ことは、できます。
「速い思考」でカッと反応するのではなく、「遅い思考」で、そっと設計する。
たったこれだけで、職場の景色は、きっと変わります。
まずは今夜、紙とペンを用意して。
苦手なあの人の「機能」を、ひとつだけ書き出してみませんか。
その1行が、あなたの肩の荷を、少しだけ軽くしてくれるはずです。
だいじょうぶ。あなたは、ちゃんとやれています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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