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藤井風さんとお話しできた、あの日のことを忘れないうちに綴っておこうと思う

2022年7月21日。

広島文化学園HBGホールで、藤井風さんのライブがありました。

私はその日、救急医としての当直を終えたばかりでした。コロナ禍の緊張感に晒され続けて、心身ともに疲れ切っていました。
でも、ついに、ついに藤井風さんに会える。

その一心で、鉛のように重い体を引きずりながら会場へ向かいました。

2階席最後列から始まる物語

会場に着くと、もうホールは熱気に包まれていました。
老若男女がぎっしりと埋まった客席。私の席は2階席の最後列。

ステージは、藤井風の"新居"に招かれたみたいな居間風のセット。
スクリーンには「YASAI TABEYO(野菜食べよ)」の文字が映っていて、なんだか風さんらしいなと感じました。

どれだけ距離が離れていても、ワクワクが高まるばかりでした。

開演のブザーが鳴って、照明が落ちる。
黒と赤の幕が上がると、藤井風さんがソファに腰掛けて、ギターを手に現れました。

一曲目。意外にも自分の曲じゃなくて、Daniel Caesarの「Best Part」だったんですね。

しっとりと歌い上げる声。一音一音が、心に染み込んでくる。
柔らかな旋律に乗せて紡がれる歌声に、会場全体が静かに聴き入っていました。

そうなんです。浄化されていく感覚がありました。

その後、最新アルバム『LOVE ALL SERVE ALL』から「ガーデン」や「きらり」が続いて、会場の熱はさらに高まっていきます。
中盤では、ミニ冷蔵庫から水を取り出して、わざと水をこぼしてみせる。
お茶目な姿に、会場が笑いに包まれました。

宅配便に見立てた新しい電子ピアノとマイク、そして大量のリクエストカードが詰まった袋がステージに届けられると、リクエストコーナーが始まりました。

藤井風は寝そべり配信みたいにステージにうつ伏せになって、こう言ったんです。

「右手でかき混ぜてパッと引いたカードに書かれた曲を、ワンフレーズ歌わしてもらいます。」

次々と披露される、幅広いジャンルの曲たち。
会場は驚きと興奮で包まれていきました。
バラードのときは、ちらほら鼻をすする音も聞こえたなあ。

まさか、私が

やがて風さんは顔を上げて、こう提案しました。

「次は会場から直接リクエストにしましょう。」

心臓が跳ねました。

風さんは、さらに続けます。

「2階席の奥の方限定で、スタッフさん、ピュアな目をした方お願いします!」

私は2階席最後列。まさに"奥の方"です。

これは、もしかして。

胸の鼓動が高鳴りました。思わず手を挙げて、必死にアピールする。
心の中で叫んでいました。
こっち、こっちです、と。

するとスタッフがこちらを指差しました。

藤井風が笑顔でこう言ってくれたんです。

「そこの君?」

手を振ってくれました。

本当に、私を指してくれている。

「お名前をお願いします。」

マイクを向けられて、頭が真っ白になりました。
でも、なんとか平静を保ちながら、名乗りました。

「ゆうきです。」

「おお!ゆうきくん。ではリクエスト曲と、リクエストした理由をお願いします。」

どうやら年下にみられているようだ…5歳自分の方が年上なのに笑

私は、ゆっくりとリクエスト曲を口にしました。

「Mr. Childrenの『HANABI』をお願いします。普段、救急医として毎日現場で働いているのですが、大変な時はこの曲に勇気をもらっています。大好きなこの曲を、風さんの声で是非聴きたいです」

言葉が震えていたかもしれません。でも、伝えたかったんです。

彼はマイクを少し離して、確かにこう言いました。

「わお...ご苦労様です。」

その声は控えめで、客席の一部にしか聞こえなかったかもしれません。
でも私ははっきりと聞き取れました。

涙が滲みました。

感謝をするのは私のほうなのに。
胸がいっぱいで、言葉になりませんでした。

祈りのような『HANABI』

ピアノの前に向き直った藤井風が、静かに鍵盤に指を落とします。

コロナ禍で孤独や不安を抱えながらも、この曲に何度も救われてきたことを思い出しました。
夜勤明けの朝、帰りの車の中で聴いていたこと。
疲れ切った時、お風呂の中でこの歌詞に支えられたこと。

まるで祈りのように響き渡る「HANABI」の旋律と、力強い風さんの声。

2階最後列との距離は一瞬にして消え去りました。
暗闇に打ち上がる大輪の花火のように、その音色が心を照らしてくれたんです。

演奏が終わると、会場は一瞬静まり返って。
やがて大きな拍手に包まれました。
私は何度もうなずきながら、大きく手を叩いていました。

ありがとう、ありがとうと、心の中で繰り返していました。

その後、藤井風さんは自身の曲を次々に披露してくれました。

夢のような、まったく何が起きたのかわからない一日でした。

これは、夢じゃなかった

終演後、外に出ると夜風と小雨が火照った頬を冷ましてくれます。

まだ動悸が収まらないままSNSを覗きました。

そこには、信じられない光景がありました。

えぬ @sunks22 · コードブルーといえば数日前に藤井風さんカバーのHANABIが聴けたことを全世界に自慢したい。リクエストしてくれた救急医の先生に感謝。 https://x.com/sunks22/status/1550830326544748544?s=20

うえうえ @eZz6TknhKP5pLDo · 藤井風君、なんか、超越してたな。 行けてよかった。 リクエストの帰ろう、HANABI、オートマチック、全て風ワールドだったな。 #藤井風ホールツアー #藤井風 https://x.com/eZz6TknhKP5pLDo/status/1552986918794981376?s=20

はむ @hamunanyo · おはよぉ 昨日のリクエスト曲 みんな良かったですね〜 Mr.Children「HANABI」 風くんボイスで聴きたいなぁ ♪決して捕まえることの出来ない 花火のような光だとしたって もう一回もう一回もう一回もう一回 僕はこの手を伸ばしたい♪ 藤井風aaht ツアーT柄色っぽい今朝5時の空 https://x.com/hamunanyo/status/1553147345113862144?s=20

あの「HANABI」リクエストの場面に、もらい泣きしたという声。
感動したという声。
風さんの優しさに心を打たれたという声。

たくさんの人が、あの瞬間のことを投稿してくれていました。

私は、夢を見ていたんじゃないかと思っていました。

疲れ切っていたから、幻を見たんじゃないかと。
当直明けで朦朧としていたから、あんな奇跡みたいなことが本当に起きたのか、自信が持てなかったんです。

でも、違いました。

あの瞬間、会場にいた全員が同じ温かな気持ちを共有していたんだと知って、胸が熱くなりました。

これは、夢じゃなかった。幻でもなかった。

本当に起きたことだったんです。

受け取った光は、照らし続けてくれる

2階席最後列から始まった、奇跡のようなやりとり。
まさか推しと言葉を交わせるなんて。
まさか自分のリクエストを歌ってくれるなんて。

傷ついた心を優しく癒やしてくれる、そして鼓舞してくれるような、奇跡みたいな時間だったんです。

救急の現場はこれまでもですが、これからもきっと厳しい時もあるでしょう。

でも、あの日風さんから受け取った音楽の光が、これからの道も照らし続けてくれると信じています。

そして、同じ時間を共有してくれた人たちがいること。
その記憶を言葉にして残してくれた人たちがいること。
それが、どれほど心強く、うれしいことか…。

あなたには、推しとの奇跡みたいな瞬間がありますか?
ぜひ、あなたのエピソードも聞かせてください。

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三谷雄己|綴る救急医 救急の現場を少しずつ知ったうえで、一般の方々との感覚のズレが少ない今だからこそかける文章を心がけて。 皆様のサポートは、多くの方々に届くような想いが書けるよう、自己研鑽にあてさせていただき記事として還元できたらと考えています。 共感いただけた方は何卒よろしくお願いいたします。

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