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『今日は忙しくて、それどころじゃなかった』──息子の名前が決まらない!



長男が生まれてまもない頃のことです。
夫に言われた、あの一言――

「今日は忙しくて、それどころじゃなかった。」

……その瞬間、胸の奥で何かがぷつりと切れた気がしました。



名前をつける期限と、「家に帰れない夫」


赤ちゃんの名前は、生後14日以内に役所へ届け出る決まりがあります。
遅れると過料(いわゆる罰金)が科され、戸籍にも“届出遅延”の記録が残るそうです。


それを知った私は焦りました。

長男が生まれてから10日が過ぎても、夫はほとんど病院に泊まりきり。
大学病院で“自己研鑽”という名の無給当直、そして生活のための民間病院での当直です。


夜中に帰ってシャワーを浴び、何日分かの着替えを持って早朝に出ていく日々。


出産の時だけは、勤務先の病院ということもあり、一緒にいてくれました。
「新婚旅行以来、こんなに長い時間を一緒に過ごしたのは初めてだね!」


出産は長時間になり、それはもう大変でしたが、医師としての夫は優しく、一緒に赤ちゃんを迎えられた時間は本当に嬉しくて幸せでした。


“小さな手と頼りない命”にためらいつつ、疲労と安堵の中で、
“夫婦”から“家族”になったのだと感じていました。




落ち着いて相談する時間がない


けれど、退院するとすぐに夫の心は再び患者さんたちのもとへ。
妊婦の間はあんなに優しかったのに……!

(何かしてくれたわけではありませんが…)


出産前から何度か
「名前、どうする?」と相談しても、夫はこう言うだけでした。

「顔を見たら決まるよ」
「生まれてから考えよう」

私は『名前の本』を何冊も買って、ページをめくっていましたが、ゆっくり話す時間はほとんど取れませんでした。



迎えた“期限ギリギリ”の日


出産から2週間。
このままでは間に合わない──

焦った私は、疲れて帰ってきた夫を待ち構えるように声をかけました。

「出生届、明後日には出さないと罰金になっちゃうよ!」

すると返ってきたのが、あの一言。


「ちょっと休ませて。今日は忙しくて、それどころじゃなかった。」
「延滞金、いくら?」


えぇー⁉︎
……絶句しました。
昨日今日の話か⁉︎


「“忙しかった”って…
それはないでしょう⁉︎」

しかも、“それどころ”って!

──もう、泣けてきます(笑)



さらに追い打ちの会話も。

私:「せめて、赤ちゃんの名前を決める時間くらい作れないの?」
夫:「出産の日も、他の先生に仕事を代わってもらって迷惑をかけた。それなのにまた早く帰るなんてできない。」
私:「……赤ちゃんが生まれる同僚の仕事を代わるのは“迷惑”なの?」
夫:「迷惑とまでは言わないけど、負担ではある。みんなギリギリでやってるんだよ。」


私は絶望的な気持ちになったと同時に悟りました。

夫の勤務先で出産することになり、里帰り出産もできない私の
“前途多難な育児の始まり”を。



名前はこうして決まりました


正直、こうなる予感はしていました。

だから私は、姓名判断の本をめくり、縁起の良い字画を調べ、いくつか名前の候補を考えておいたのです。


夫はそれを一度も見ようとしませんでしたが、いよいよ期限前日。
ようやく膝を突き合わせて座ってもらいました。


私が挙げた候補の中から、順番に消していった夫が、最後にひとつを指さして言いました。

「これがいいんじゃない?」

……その名前こそ、私が一番気に入っていたものでした。

「夫が決めた」という形になるよう、そっと誘導したのです。



「産後の恨みは一生」⁉︎


ずいぶん後になって、
「産後の恨みは一生」という言葉を知った時には、「まさに!」と思ったものです。


出産後に妻が受けた夫の配慮不足や不満が、長く夫婦関係に影響することがあるという俗説・ことわざ的な表現です。



でも最近の長男の誕生日には、あの日のことも笑って話せるようになりました。

──それは、ようやく自分の人生に納得できたから。


あの日のひと騒動も、私にとっては“家族を支えてきた年月の一部”になりました。


あの時の赤ちゃんは今、二人の弟たちから尊敬される、優しくて頼もしい青年になっています。



母として、そして自分の人生も


激務の夫に振り回されながらも、
母としてたくましくなった自分に気づきます。

長い専業主婦生活を経て、今では家庭だけでなく、自分の仕事も持てるようになりました。


そして、「何かを決める時には候補をいくつか用意して、“夫が決めた形”に収める」
これが我が家の、平和を守る定番作戦になりました。
(あ、言っちゃった🤭)



もう、可哀想ではありません


「うちの夫も忙しいけど、Acoちゃんちよりマシ」
「かわいそう…私なら耐えられない」

そう言われた日もありました。


でも今の私は、もう可哀想ではありません。

こんなトホホなエピソードを山ほど抱える私ですが、
あんな頃もあったからこそ──


家族と過ごせる何気ない日常も、
自分の人生も、
いっそう愛おしく感じられるのだと思うのです。


ちなみに──


※出生届の提出期限は「生後14日以内」(国外で出生の場合は3か月以内)。
遅れると「過料5万円以下」の行政罰が科されることがあります(戸籍法第49条)。



ワークライフバランスも、働き方改革も、まだなかった時代。

「延滞金いくら?」って……
レンタルビデオじゃあるまいし。

サブスク全盛の今では、あの頃のレンタルビデオ店もすっかり見かけなくなりました。


22年前の、ちょっと懐かしい話です(笑)。

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