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【ショートショート】『金魚の白昼夢』​【ホラー】

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ようこそ、皆さま! セイウチです。

今日も淹れたてのコーヒー片手に、海からの贈りものを解き明かしていきましょう。

​アナタにお届けするのは、ある金魚が見た「夢」の記録。

でも……本当にただの夢だったのでしょうか?

水底から見上げる世界へ、少しだけ潜ってみませんか。

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​わたしは、ガラス鉢のぬるい水の中からユラユラ揺れる赤いリボンの髪飾りをつけたお嬢さまを見つめている。

お嬢さまは本当にかわいらしい人だ。
揺れる水面越しに見えるその笑顔を、わたしはいつだって愛おしく思っていた。
できることならその声に応え、もっとたくさんお話し相手になりたい。
けれど、言葉を持たない身である自分がもどかしく、ただヒレを揺らすことしかできないのがやるせなかった。

お嬢さまは最近、いつも寂しそうだ。
大好きなお兄さまが、ちっとも相手をしてくれないのだという。

「お兄ちゃん、最近ずっとお部屋に閉じこもって遊んでくれないの」

そうこぼすお嬢さまの声を聴きながら、わたしは胸を痛めていた。

「ねえ、お庭のキンギョソウ、すごくキレイに咲いたのよ」

そう語りかけてくるお嬢さまの口元を、わたしは水底からじっと見つめていた。

​その日、廊下からバタタタタ……と楽しげな足音が近づいてきた。
お嬢さまは部屋に入ってくるなり、無邪気な笑顔で言った。

「アナタをもっといいところに連れていってあげる」

小さな両手が、わたしが入っている水入りのガラス鉢を抱え上げる。
廊下を抜け、階段を下り、差し込む太陽の光。
連れ出された先は、息が詰まるほど熱い、炎天下のお庭だった。
水鉢を覗き込むお嬢さまの可愛いお顔。けれど、激しく揺れる水面のせいで、その微笑みはぐにゃりと不気味に歪んで見えた。

「さあ、今からここがアナタの新しいお家だよ。キレイな赤いお花を咲かせてね」

一瞬の浮遊感。
ガラス鉢がひっくり返され、庭の隅、真っ赤なキンギョソウが並ぶ隙間の土へ、わたしは投げ出された。
水はまたたく間に乾いた土に吸い込まれていく。
自慢の赤いヒレは、熱い泥にまみれてべったりと地面に貼りついてしまった。
エラを動かすたび、生温かい泥の匂いと息の詰まる熱気が胸いっぱいに広がる。テチテチと狂ったように跳ねるたび、体中の水分が太陽に吸い取られていくのが分かった。
見上げると、あの人がじっとわたしを見下ろしている。
お人形のように愛らしく微笑みながら。

「キレイ、すごくキレイ。そこで真っ赤な、誰も見たことがないような、美しいお花を咲かせてね」

遠のいていく意識の中で、お嬢さまの髪飾りの赤いリボンが、ひらひらと、まるで金魚のように揺れているのが見えた。
ジワジワと焼き尽くされる泥の中へ、深く、深く沈んでいく――。

​ーーーハッ……と、息を呑んで目を覚ました。

嫌な汗が全身にまとわりついている。
エアコンが止まり、部屋全体が蒸し風呂のようにひどく蒸し暑くなっていた。
どうやら寝返りを打った際、手元にあったリモコンに触れて電源を切ってしまったらしい。

「……なんだ、夢か……」

リモコンを操作して冷房を入れ直す。最近、部屋にこもってばかりで妹の相手をしていなかった罪悪感が、こんな変な夢を見せたのかもしれた。
乾ききった喉を潤そうと、僕は部屋を出て階段を下り、キッチンへ向かった。
廊下の角を曲がったところで、妹と鉢合わせした。

「あ……お兄ちゃん」

妹は足を止め、愛くるしい笑顔を向けてくる。

その手には、水がひとしずくも入っていない、空っぽの金魚鉢が大事そうに抱えられていた。
妹の髪飾りの赤いリボンが、ひらひらと揺れていた。






(了)

※この物語はフィクションです。
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