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【アマノ文筆クラブ】『色眼鏡』【勢い制作】

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ようこそ、皆さま!

本日も波打ち際に、誰かの心が詰まった新しいボトルが流れ着きました。

淹れたてのコーヒーでも飲みながら、一緒に中身を覗いてみませんか?

​今回拾ったのは、人間の「本性」にまつわる、少し皮肉な漂流記のようです――。


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ある日、差出人不明の小包が届いた。

心当たりは一切ない。
だが、宛名ラベルには間違いなく俺の名前と住所が印字されていた。
不審に思いながらもテープを剥がすと、中から出てきたのは古びた黒縁の眼鏡と、一枚の紙きれだった。

​『色眼鏡――人の本性が見える眼鏡』

​取説らしき紙には、そんな大層な見出しが躍っていた。
どうやらこの眼鏡をかけると、人の本質が“色”となって視覚化されるらしい。
ただし、文末には赤字でこう強調されていた。

『※注意:絶対に自分自身を覗き込まないでください』

​「ははっ、なんだそりゃ。オカルトのジョークグッズか?」

​連日の猛暑の中、日課のように死んだ目で部屋の天井を眺めて過ごしていた俺だ。
くだらないと切り捨てるには、あまりにも退屈すぎた。
俺は暇つぶし半分、呆れ半分で眼鏡を耳にかけ、外へと足を踏み出した。

​結論から言えば、その眼鏡は「本物」だった。
​路地裏を曲がり、駅前の交差点に立った瞬間、俺は息をのんだ。
世界が、毒々しい原色で塗りつぶされていたのだ。
​向かいから歩いてくる厚化粧の派手な女。
一目見た瞬間、俺の脳裏には「どうせ男の金で着飾ってる性悪女だろ」という確信が浮かぶ。

ーーすると、どうだ。

眼鏡越しの彼女は、ドロリとした品のない『ショッキングピンク』に染まって見えた。
​次に、公園のベンチでヘラヘラと笑い合う若者グループ。

「若さにまかせて愚行を撒き散らす不快な害虫ども」

と吐き捨てた瞬間、彼らは不気味な『ギラついた蛍光イエロー』に発光した。
​なるほど、素晴らしい。
俺の見立ては完全に正しかったのだ。
世の中の人間どもは、俺が日頃から見下し、蔑んでいた通りの醜悪な本性を持っている。
この眼鏡は、それらを一切の偽りなく暴き出してくれる至高のアイテムだった。

​(やっぱりそうだ。見た目が軽薄なやつは、性根も下品なピンク色だ)

(あいつらは頭が空っぽだから、安っぽい黄色なんだ)

​己の洞察力の正しさが証明されていく。
それが可笑しくて、痛快で、俺は街を歩きながら何度も吹き出しそうになった。

​「最高だ……! みんな思っていた通りのバカで愚か者じゃないか!」

​存分に他人を嘲笑し、絶対的な優越感に浸った俺は、ニタニタと笑みを浮かべたまま自宅へと戻った。



​自室の机の上に眼鏡を置き、じっと見つめる。
脳裏をよぎったのは、あの取説の最後の文章だった。

​『絶対に自分自身を覗き込まないでください』

​見るなと言われれば、見たくなるのが人の性だ。
だが、なぜ警告されているのかも察しがついた。
これだけ他人の醜悪な本性を暴いてきたのだ。
冷徹に世の中を俯瞰し、愚民どもをあざ笑う俺自身の本性を見たら……きっと、正気を保てないほど重厚で、知性にあふれた凄まじい色が見えてしまうからに違いない。

​「深みのある漆黒か、それとも冷徹な蒼か……」

​胸をワクワクと躍らせながら、俺は再び眼鏡を装着した。
洗面所へ向かい、パッと電気をつける。姿見の鏡の前に立ち、ゆっくりと顔を上げた。

​そこに映っていたのは――

​何の色もついていない、ただの「無色透明」な姿だった。
​鮮やかなピンクも、不快な黄色も、重厚な黒や蒼すらない。
ただ、どこにでもいる、髪の薄くなったくたびれ顔の中年男性。
色とりどりの本性を撒き散らす街の人間たちとは違い、何のオーラも、色彩も持たない男がそこに立っていた。

​「……え?」

​他人の本性があれほど鮮明に見えるというのに、自分には見せるべき「本性」すら存在しない。
冷徹な観察者を気取っていた自分には、誇れるような個性も、嫉妬するほどの毒すらもなく、ただの空虚しか存在していなかったのだ。
​鏡の中の無色で平凡な男が、ぎこちなくひきつった笑顔のまま、凍りついたように突っ立っていた。


​(了)

※この物語はフィクションです。
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最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

​前回、【甘野 充】さんの企画お題「デジタルタトゥーを消したい」に続いて、今回も参加させていただきました!

​今回のお題は「色眼鏡」だったのですが、なかなかアイデアがひらめかず「今回は難しいかな…」と思っていました。
ですが、脳内の小さな引き出しをひっくり返して、なんとか創意工夫して作り上げました!

​また素敵な企画があれば、ぜひ参加させていただきたいです。

今後ともよろしくお願いいたします!m(_ _)m


毎週火曜日に自分の作品を投稿、企画に参加させていただく時は不確定的に投稿します!

気に入った方は是非スキやフォロー、シェアしてもらえると嬉しいです。


↓甘野 充さんのリンク↓

↓前回の企画お題「デジタルタトゥーを消したい」

↓私の自己紹介↓



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セイウチ@波打ち際の漂流記 波打ち際で拾った物語はいかがでしたか?いただいたサポートは、セイウチが次のボトルメッセージを探すための「温かいコーヒー代」として大切に使わせていただきます。アナタの応援が、海風で冷えたお腹と心をホッと温めてくれます。いつもお読みいただきありがとうございます!