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【8月10日】 宵の口の蝶々

こんにちは!あるいはこんばんは!
ライターの里海です。


人生半ばを過ぎて振り返ると、自分の原点は案外しょうもない場所にあったりする。 整理中の押し入れで見つけた一冊の『夏休み日記』。そこに記されていたのは、ノスタルジーではなく哀愁溢れる昆虫観察記だった。
純粋すぎるがゆえに昆虫をよく観察した小学3年生のあの夏。 『夏休み日記』のページを、こっそりめくってみてください。

早速『思い出ノート』開始です!

🌼宵の口の蝶々

宵の口の蝶々

【日記原文】8月10日
『夜に海へ行ったら、大きな花火が上がって、お祭りの音がドンドンひびいていた。昼にカマキリがいた黄色い花の上に、今度はきれいな蝶々がとまっていた。蝶々は花火のまぶしい光と大きな音におどろいて、気絶しているように見えた。お祭りのにぎやかな音が、蝶々にはどんなふうに聞こえているのかな。』

※里海少年の『夏休み日記』より

押し入れの奥から見つかった『夏休み日記』。茶色く褪せたページをめくると、昭和の終わりの、あのむっとする夏の匂いが蘇る。8月10日の頁に記されていたのは、「宵の口の蝶々」の記憶だった。

その夜、私は家族と花火大会に出かけていた。潮風が運ぶ火薬の焦げた匂い。遠くでドーンと音が響くたび、漆黒の海は赤や緑に染まり、ゆらゆらと揺れていた。

賑やかな喧騒から少し離れた小さな草むら。私は昼間にカマキリを見つけた黄色い花をそっと覗き込んだ。その花の真ん中に、一匹の蝶がいた。

大輪の花火が弾ける一瞬、草むらは真昼のように照らされ、蝶の繊細な翅の筋が美しく浮かび上がる。

しかし、身体を震わせる大音響と閃光のなかにあっても、蝶は気絶したように羽を閉じたまま動かない。

小学3年生の私は、夜の静寂の中で眠るはずの小さな命が、人間のお祭りの眩しさに困っているのではないかと本気で心配した。

私は被っていた麦わら帽子を脱ぎ、蝶の上に掲げて小さな「夜の影」を作った。

花火が上がるたび、光を遮るように必死に位置を調整する。

腕はだるく、主役の花火はほとんど見られなかったけれど、帽子の影で守られている小さな羽を見つめながら、私の胸は誇らしさで満たされていた。

大人になった今なら、蝶はただ夜の生態に従って眠っていただけだと分かる。

けれど、小さな虫も自分と同じように眩しさを感じると信じ、自分の楽しみを差し置いて影を作ったあの頃の全き優しさが、今では少し羨ましくもある。

日記を閉じながら、不器用な少年の正義感に苦笑しつつ、胸の奥がじんわりと温かくなった。

あの夏の夜、激しい光を背に浴びながら、小さな虫のために一生懸命に帽子の影を広げていた里海少年の姿が、今も私の原点として優しく息づいている。

里海 毅(Satomi Tsuyoshi)


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