いつから僕たちは無地のTシャツに満足するようになったのか
若い頃はTシャツで個性を出すのが当たり前だった。
洒落たデザインの背面グラフィック。
何が書いているかわからないけどカッコイイ英語の文字。
アーティスティックな風景画。
謎のイーグル。
謎のニューヨーク。
一度も行ったことないのにニューヨーク。
ショップへ行き、
「なんかカッコイイ」という感性でプリントTを買い漁っていた。
「俺を見ろ!」とTシャツで主張していた。
どんな色の、
どんなプリントのTシャツを着るかで、
すべてのセンスが決まると思っていた。
あの頃は、無地のTシャツなんて選択肢にすら入ってなかった。
「ロゴなし?プリントなし?それって肌着じゃん?」
本気でそう思っていた。
ところが40代になった今。
クローゼットを開くと、
黒。
白。
グレー。
ネイビー。
全部無地。
終わり。
ファッション誌を見ても無地T特集。
YouTubeを見てもユニクロ、GU、無印良品の無地Tをおすすめしている。
ファストファッションだけの話ではない。
セレクトショップにも。
アウトドアブランドにも。
スポーツブランドにも。
あれ?ここって無印良品だっけ?と思うぐらい無地Tがたくさん並んでいる。
「いや、うちのは素材にこだわっているんですよ」
「このサイズ感はうちだけです」
各社は無地Tという戦場で戦っている。
これほどまでに無地Tが立派な街着として市民権を得ることになったのは、間違いなくノームコアがあったからだろう。
あの「普通が一番オシャレ」という巨大なブーム。
あれは強かった。
本当に強かった。
みんな無地Tばかり着ていた。
ロゴを消した。
プリントを消した。
色を消した。
装飾を消した。
そして「世の中で最も無難な服」というポジションを確立した。
でも不思議なのは、そのノームコアブームが去ったあとだ。
若い子たちはもう戻っている。
グラフィックT。
バンドT。
映画T。
企業ロゴ。
キャラクター。
ヴィンテージプリント。
タイダイ柄。
街ゆく若者たちを見ると、また楽しそうにTシャツで遊んでいる。
なのに。
40代だけ戻ってない。
相変わらず無地。
びっくりするくらい無地。
「もう戻れないんです。」
そんな悲しい目をしているかのように。
なぜだ。
その答えはたぶんこうだろう。
40代になると、着ているTシャツに勝手に意味を持たれる。
「あえてそのTシャツを着ているんですよね?」と。
Tシャツにロゴやイラストがあるだけで勝手に判断される。
「あ、そのブランド好きなんですね。」
(いや、流行っているらしいから…)
「あ、そのロックバンドが好きなんですね。」
(いや、聞いたことない…)
「あ、そのアニメ好きなんですね。」
(いや、漫画すら読んだことない…)
「あ、アウトドアが趣味なんですね。」
(いや、思いっきりインドア派です…)
たかがTシャツ一枚なのに、ロゴやプリントで勝手にイメージされてしまう。
「まさか、なんとなくでそのTシャツ着ていないよね?」という無言のプレッシャー。
そして、ブランドイメージと年齢との乖離も気になり始める。
20代なら、
「Supremeなんですね!」
で終わる。
40代になると、
「まだ好きなんですね。」
になる。
この"まだ"が怖い。
たった二文字なのに破壊力がすごい。
その点、無地はラクだ。
何も語らない。
何も主張しない。
誰にも説明しなくていい。
ブランド論争も起きない。
年齢も関係ない。
思想も出ない。
趣味もバレない。
まるでSNSをやめた人間みたいな静けさがある。
若い頃は、Tシャツで自分を語ろうとしていた。
40代になると、自分を語らなくてもいいと思えるようになる。
だから無地Tばかり着るようになる。
もしかすると僕らは、無地のTシャツに満足しているじゃない。
自分を必要以上に説明しなくてもいい年齢になっただけなのかもしれない。
今日も僕は、黒の無地Tを着ている。
昨日も黒。
その前の日も黒。
多分明日も黒。
ヘインズのKUROを着て、無印良品のクルーネックTを着て、GUのドライボクシーTを着る。
ぜんぶ黒だ。
他人から見たら、「いつも黒Tを着ている人」でしかない。
でも本人だけは違いがわかっている。
生地が違う。
首の詰まりが違う。
袖丈が違う。
肩の落ち方が違う。
シルエットが違う。
もはや間違い探しのレベルである。
このワイドパンツにはこの黒Tで。
自分なりの楽しみ方でちゃんと主張している。
誰に理解されなくてもいい。
むしろ理解されないくらいがちょうどいい。
自分が気に入っていれば、説明する必要はない。
ただし、
「あれ? また黒買ったの?」
という妻の問いにだけは答えないといけないが…
ではまた。
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