映画『PERFECT DAYS』を観て考えた完璧だった日々
ライブを見る前に公園で缶チューハイを飲むのが習慣だった。といっても片手で数えられるくらいしかしていない。しかし、完璧な日々の一部だったのは事実だ。
私にはライブハウスでできた友達がいた。同じバンドが好きでお酒も好きだった。初めて会ったライブで私から話しかけ、次のライブでは同じ電車の別の車両に乗っていた。駅に着き、電車を降りて目が合って笑った。それからライブハウスが開く前にご飯を食べたりお酒を飲んだり。そんな関係になった。大阪までライブを見に2人で行ったことも2人で大きな花を出したこともあった。私が泥酔して介抱してもらったことも昨日のことのように覚えている。
どっちから言ったのだろうか。ライブ前に名古屋のライブハウス@-hill近くにある100円ローソンに行った。缶チューハイを1本ずつ取りレジへ持っていく。たまにライブ前のバンドマンすれ違い、「ライブハウスから近いもんな。」と思ったりした。缶チューハイを買うと近くの名前の知らない公園に行く。今となっては行き方も分からない。そこには私と友達の2人だけ。誰もいない。ブランコに座って乾杯し、お酒を口に運びながらブランコ漕ぐ。本名も年齢も仕事も学歴も兄弟も家庭環境も何もかもそこにはなくて、ただライブの開演を待つ酒好きの2人がいた。
ライブハウスの開場時間になるとすっかり酒を飲み干した2人は@-hillに向かう。ライブハウスの扉をくぐると見慣れた顔が飛び込んでくる。「おかえり〜」の声に笑顔で「ただいま〜」を返す。
そして受付でチケット代とドリンク代を払い、チケットとドリンクチケットを受け取る。会場内に入るといつものメンバーに会う。日常から切り離された空間に「あぁ帰ってきた」と思う。そこは「団子ちゃん」と呼んでくれる人で溢れていた。
開演前、まずはドリンクチケットでレモンサワー(通称アヒルサワー)を飲む。アルコール度数は5%らしいがどう考えても5%ではないとよく話した。最終的に氷をパンパンに入れて5%ではないかという話になったが真相は分からない。私はそのレモンサワーを何杯も飲んだ。友達とレモンサワーを空にすると何度も言った。
他のバンドの演奏を聴きながらレモンサワーを飲んだ。転換中に飲み終えて一緒に手を上げて楽しんだりもした。全く聞き取れないバンド名に初めて聞く曲。それでも楽しかった。
お目当てのバンド『メトロホログラフィー。』の出番になると私は最前列のキーボード前に立つ。柵にタオルをかけ始まるのを待った。私はキーボードの琴羽さんが好きだった。ぴょんぴょん跳ねて弾くキーボード好きだった。歌詞もメロディーも世界観も好きだった。酔っ払った私が帰り際「大好きです!」と言った時、大きな口を開けて笑っていたのを今でも覚えている。私は自ら「ヤバファン」と名乗り、ほぼ全てのライブに行った。
メトロホログラフィー。の出番が終わった後も私と友達はお酒を飲んだ。財布から何度もお金を出し何度も飲んだ。
最後のバンドの演奏が終わり、会場内で行われていた物販も終わるころ。他のお客さんが帰っても私と友達はまだ会場内にいた。ライブが終わった後、演者とスタッフで乾杯をする。その中に毎回混ぜてもらっていたのだ。たわいもない話をして終電ギリギリまで飲んで帰宅する。バンドマンに名古屋駅まで送ってもらったことも諦めてどこかのネカフェに泊まったこともあった。
コンビニで缶チューハイを飲んでから終電で帰宅するまであまりにも完璧な時間が流れ、このまま続けば良いと何度も思った。
しかし、完璧な日々は続かない。メトロホログラフィー。は解散し、その後、琴羽さんが「橋本ねこ」に名前を変え始まった『Draw Daydream During Dawn』の活動もしばらくして止まってしまった。愛知県に住んでいた私も大学卒業のタイミングで地元・長野県に帰ってきていた。今はもう@-hillに行くタイミングも友達に会うタイミングも分からない。
ただ、メトロホログラフィー。が作ってくれた友達とは不思議なものだ。示し合わせることなく偶然タイミングが合い、それぞれ別の用事で来ていた栄と新宿で昼飲みをした。缶チューハイを一緒に飲んでいた友達以外ともKing & Princeのライブや東海オンエアのイベントに行った。
ライブのたびにもらったサイリウムも一緒に撮ったチェキも全部買ったグッズも缶バッジがパンパンに詰まった団子ちゃんセットも解散後にもらったボーカル・蓮さんからの手紙も全部全部すぐに取り出せる場所にしまってある。
今でもこんなに幸せだったファンはいないと思う。ファンで良かった、そう思う。あの音楽とお酒、好きな人達に囲まれる日々はあまりにも完璧だった。

私の完璧な日々に存在していた曲を聴いてほしい。本当は全部聴いてほしいけれど、ビビッと来たものだけでも聴いてくれると嬉しい。
・メトロホログラフィー。
・Draw Daydream During Dawn
・橋本ねこ
どの曲も思い出が詰まっていて久しぶりに聴いて泣いた。やっぱりめちゃくちゃ好きだったんだと実感した。音楽はあまりにも記憶のアルバムだ。
さて、映画の話も少ししよう。一応ネタバレである。
主人公・平山が空き地を通りかかった時、老人が「昔その場所に何があったか思い出せない」と言った。毎日そこにいてもいなくなれば忘れられてしまうのだ。その場面で平山は自分も消えたらすぐに忘れられる存在だと思ったのかもしれない。
私もきっと消えたらすぐに忘れ去られる存在だ。そう思うと少し胸が苦しくなった。ちょっとでも覚えていてほしい、少しでも覚えていてくれている人がほしいと思った。それと同時に同じように胸が苦しくなった人のことを絶対忘れないようにしたいと願った。
・トイレに置かれたメモ用紙で始まったゲーム
・ほっぺにキスした若い女性
・平山を特別扱いをする料理屋のママ
・急に同僚が仕事を辞めて崩れるシフト
・久しぶりに現れた姪と姉
ゲームの相手と会うことも若い女性とデートすることも、ママと良い雰囲気になることもシフトの穴が開きっぱなしになることも、姪と姉と揉めることも和解することもない。何か新しい出来事が起こりそうな予感だけを残し、何も起こらないで過ぎていく。あまりにも現実すぎて頭がぼーっとした。変わり映えのない日々に小さな幸せを見つける。決して大きな幸せは望まない。それが平山の完璧な日々なのかもしれない。
最後に『PERFECT DAYS』を見るきっかけになった倉田シウマイさんのnoteを貼る。
私は自分が生きるので精一杯だ。他人を気にかける余裕はない。しかし他人がどのように生きているのか知るとなぜかホッとする。倉田さんの完璧な日々を見てほしい。なぜか心地いい。風通しの良い日本家屋で日向ぼっこをしているような気分になる。いいよね、倉田さんって。倉田さんが私の見つけられる場所にいてくれて良かった。
今の倉田さんがまた別の、私の完璧な日々を作り始めている。私はそう思う。
いいなと思ったら応援しよう!
チップというものを貰ってみたいので「なんかこのnoteいいな」と思ったらチップください!!