ショートショート『星の声』
人類が宇宙に飛び出して100年。
僕は、地球から遠く離れた観測衛星で、一人働いている。
任務は、宇宙の「音」を集めること。
誰もいないはずの宇宙から、かすかに届く「誰かの声」を記録するのだ。
ある日、奇妙な信号が届いた。解析をかけると、そこには人の言葉が入っていた。
「おかえり。あなたが帰ってくる日を、ずっと待ってるよ。」
僕の胸がざわついた。それは、間違いなく母の声だった。
でも、母は20年前に亡くなったはずだ。
実家で使っていた、あの優しいトーン、呼びかけるときの癖……間違いない。
通信の記録を遡ると、それは20年前、地球で発信された信号だった。
母が、僕の訓練出発前、誰にも知られず送っていたメッセージ。
未来の僕に届くよう、宇宙に打ち上げられたカプセルから。
その信号は、何十年もかけて宇宙を巡り、偶然、僕の衛星に届いたのだった。
録音を繰り返すたびに、涙が止まらなかった。
母がもういないこの宇宙で、それでも、僕を待つ声がある。
その夜、星を見上げながら返信を打った。
「ただいま。ちゃんと届いたよ。
今も、生きてるよ。」
星の向こうからは何も返ってこないけれど、
僕の声も、いつか誰かに届くのかもしれない。
