episode2007小寒
夜が静かに降りてきた。街の音がすこし遠ざかって、布団の中に落ちる小石のように、メールの通知が響いた。送ってきたのは、すなゴラさん。NFCの大先輩で、年末年始をサッカーと母校の八千代高校の応援に捧げきった、ある意味で一途なひと。
「明日はNFCの初蹴りです。ホントにプレゼントがあるから来て下さい」
その言葉に、ひとつの風景がぼんやりと浮かんだ。 乾いたグラウンド、霜の下りたボール、息の白さ。 「行きます」そう返して、少しだけ心が浮いた。
30分も経たないうちに、イットからも連絡が来た。 NFCのキャプテンで、彼もまた八千代出身。
「○○さんが来るらしいです。まわりには内緒でお願いします」
○○には、あの現役のJリーガーの名。代表選手。オシムイズムの申し子。運動量の化身みたいな人。
すなゴラさんの“プレゼント”は、たぶんこれだったんだと察した瞬間、秘密は消えてしまったけれど、心はざわついた。久しぶりに、ちゃんとざわざわした。
当日、臼井でたけおを車に乗せた。彼も八千代高校出身で、最近はほぼヒモ。でも彼女に怒られてる時の顔は、ちょっと可愛い。
「○○さんに将棋板にサインもらってもいいかな?」 と僕が聞くと、たけおが言った。
「あの人、八千代史上一番コワいよ。マジで」
会場に着くと、ひとりぽつんとケイタくん。 千葉敬愛出身、江古田を朝6時出発して定刻通りに成田に来るという律儀さと、どこか不安定なバランス。この世代特有の孤独を、サッカーボールがかろうじてつなぎとめてるような、そんな印象。
そっと近づいた○○さんは、言葉にできない種類のオーラをまとっていた。代表ってこういう人なんだな、と直感した。隣にいたすなゴラさんまで、なんだか眩しかった。
その日の僕は、代表選手のシュートを一度だけ止めた。 それがどうした、と笑われたけど、それがどうした、が人生の誇りになる瞬間もある。
後半は、ながそえさんの長男かずき(3歳)と戯れた。右利きだったけれど、僕らの全力の「お祭り級ほめほめ戦略」で、いつの間にか左で蹴っていた。
未来って、たぶんこうやって変わる。無邪気さと大人の本気が出会う場所。彼の中の、未来のJリーガーが目を覚ましたような気がした。
帰り際、たけおがラーメンを奢ってくれた。まだ学生なのに。今度はパン屋に行きたいって、そういう願いもまた、ちゃんと幸せだ。
全体としては、何かを変えるような出来事ではないけれど、心の片隅に静かに座りつづける、そんな一日だった。
