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ライオン橋(最終話 第4話/4)

 審判前日、京は大翔に接見するため鑑別所を訪れていた。

両親はその日まで、被害者との示談に奔走していた。京も立ち合った。
「お父さん頭下げて君の代わりに謝ってたよ。公園でスクーター盗まれた被害者のおばさんに申し訳ありませんって。お母さんも横で頭下げて泣いてた」

 十件のうち、交渉ができて六件の示談が済んでいた。うち三件は少年に寛大な処分を望むという嘆願書までもらうことができた。大翔はうつむき、京の言葉に耳を傾けていた。

 父親は「保護観察でも少年院送致であっても大翔が帰ってきたら家族で迎えます」といい、その表情からは全てを受け止め、一緒に生きていくという強い覚悟が感じられた。

 カレーの一件を母親にも伝えた。当惑し、「あの子が私のカレーが好きって言ったんですか? 最後に作ったのいつだっただろう? たぶんあの子が小学生の時です」と遠い目をした。でも、「作ります。ああ、何年ぶりだろう」と照れくさそうに、はにかんだ。
「お母さんのカレーが食べたいって伝えたよ。お母さん、作って待ってるって」
 今まで堅い表情だった大翔が、一瞬にして花が咲いたように破顔一笑した。
「審判では本当の事、自分の言葉でちゃんと言えるよね?」
「はい」
 もう、涙はなかった。以前とは違うしっかりとした意思のある返事だった。
 
 空が高い。北風がチクチクと頬を刺す。力強くヒールを鳴り響かせ、京はライオン橋を渡る。足取りは軽い。突然、乾(あな)風(じ)が吹きつけ、さらわれそうになる。それにあらがうように京は立ち止まると、高欄の獅子像を仰ぎ見た。ライオンは大きな口を開けて天にむかって吠えている。その時、橋にまつわる逸話がふと、頭をよぎる。

「ライオンはもう一頭いる。伊助は五頭のライオン像を注文していたらしい」じゃあ、もう一頭は何処にいるのだろう? 

 人生に必要なものは、勇気と想像力と…… あとひとつ。京は何処かにいるというライオンを探してみたくなった。スマホをポケットから取り出すと、かじかむ手で佐藤にメールする。サヨナラ、独立します。
 お日様の柔らかな光が京を優しく包み込んだ。               

〈了〉

 
ライオン橋(第1話/4)
ライオン橋(第2話/4)
ライオン橋(第3話/4)

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