IT&scienceで大学教育を考える第1回:就活支援だけで足りるのか?― AI時代に大学が育てるべき“就業力”とは
大学教育において、「就職支援」の重要性は年々高まっています。
少子化による大学間競争の激化、保護者の就職意識の高まり、大学評価指標としての就職実績。こうした背景から、多くの大学がキャリア教育や就職支援の強化に取り組んでいます。
自己分析、エントリーシート対策、面接練習、インターン支援――。
もちろん、これらは重要です。実際、学生が社会に出る入口を支えるうえで欠かせない取り組みでしょう。
しかし、「就活支援だけで、本当に十分なのでしょうか?」
私はIT業界で新卒採用や人材育成、組織変革に関わる中で、多くの若手社員や学生を見てきました。その中で強く感じることがあります。
それは、“就職はできても、働く準備ができていない学生が増えている”ということです。
このシリーズで伝えたいこと
本シリーズでは、AI時代に大学が育てるべき「就業基礎力」について、全5回で整理していきます。
第1回:就活支援だけで足りるのか?
― 就職率ではなく“就業力”を育てる時代へ
第2回:なぜ学生は考えられないのか
― “自己分析”だけでは就職できない理由
第3回:AI時代のキャリア教育とは
― AIを使うだけでは勝てない理由
第4回:企業が本当に求める基礎力
― 学際的スキルとは何か
第5回:大学教育をどう変えるべきか
― AI時代の“就業基礎力プログラム”提案
最初に申し上げておくと、私は大学教育を否定したいわけではありません。私自身は専門分野として物理学をみっちりと学べたことを誇りに思っています。
ここは、大学が今後さらに価値を高めるために、何を強化すべきかを一緒に考えたいという問題意識から書いています。
就職率は高い。でも企業は困っている
企業側の声として、近年よく聞くものがあります。
「指示待ちが多い」
「自分で考えられない」
「正解を求めすぎる」
「言われたことはやるが、状況に応じた判断ができない」
もちろん、すべての学生ではありません。しかし、特に変化の激しい業界ほど、一人ひとりが考えて動くことが戦力充実には必要なので、こういった学生の傾向への危機感が強まっています。
ここで重要なのは、“能力が低い”という話ではないということです。むしろ、学力が高く、真面目で、努力もしてきた学生ほど悩むケースがあります。
それは、これまでの教育で求められてきた力と、社会で必要とされる力にズレがあるからです。
教育は「正解を出す力」に寄りすぎていないか
これまでの学校教育では、基本的に次のような構造が中心でした。
問題が与えられる
解き方がある程度決まっている
正解に近づくほど評価される
この仕組み自体は合理的です。知識の習得や基礎能力の形成において、非常に有効な方法でもあります。繰り返しますが、私も数学や物理をこれで身につけていきました。
しかし、社会に出た瞬間、状況は大きく変わります。現実の仕事では、「そもそも何が問題なのか分からない」ことがほとんどだからです。
営業不振の原因は何か。
学生募集が伸びない理由は何か。
組織がうまく機能しない理由は何か。
こうした問いに、唯一の正解はありません。むしろ、“自分で問いを立て、考え、試し、修正する”ことが求められます。
ところが、これまで「正解を出す訓練」を中心に育ってきた学生ほど、突然この世界に放り込まれると苦戦します。
「正解が欲しい」
「まず答えを教えてほしい」
という思考から抜け出せないのです。
AI時代は、この問題をさらに大きくする
そして、この問題をより深刻にするのがAIです。
生成AIは、驚くほど自然に“答えらしきもの”を返してくれます。
レポート案も出る。
企画書も作れる。
分析もしてくれる。
(何ならこの文書も・・・)
少し前なら数時間かかったことが、数分で終わるようになりました。これは間違いなく大きな進歩です。
しかし一方で、重要な問いがあります。
「その答えを信じる理由を、自分で説明できますか?」
AIは答えを出してくれますが、何を信じ、何を採用し、どんな判断をするかまでは決めてくれません。つまり、AI時代ほど、人に求められる力は変わっていくのです。
知識量だけでは差がつきにくくなる。
「検索が速い人」の価値も下がる。
代わりに重要になるのは、
問いを立てる力
情報を整理する力
仮説を持つ力
不確実な中で判断する力
です。
私はこれを、“就業力”と呼びたいと思っています。
(このシリーズでは就業力と呼びますが、本質はIT&Scienceと同じです)
大学で育てて欲しい社会で活躍する人材
大学に求められる役割も、変わり始めています。
単に「就職できる学生」を増やすだけではなく、社会で活躍し続けられる人材を育てることが重要になってきています。
そのためには、就活テクニックだけでは足りません。自己分析だけでも足りません。
必要なのは、“考える力”を育てる教育です。
特に、
リテラシー教育
論理思考
AI活用
社会との接続
を統合した教育が、これからの大学には求められていくのではないでしょうか。
就職率だけを競う時代から、“就業力”を育てる大学へ。
この視点が、大学の差別化にもつながっていくと考えています。
次回は、「なぜ学生は考えられないのか ― “自己分析”だけでは就職できない理由」について整理していきたいと思います。
