IT&Scienceでナレッジマネジメントを再構築する -第3回:暗黙知を獲得する科学とAI時代のSECIモデルまとめ
第1回・第2回の振り返り ― AI時代、SECIモデルの重心は変わる
第1回では、AI時代においてSECIモデルの重心が変わるという話をした。
従来、企業ではベテランの経験を形式知化し、組織全体で共有することが重視されてきた。しかし生成AIは、「言語化」「整理」「構造化」を極めて高いレベルで実行できる。
つまり、表出化(暗黙知→形式知)と 連結化(形式知→形式知)の多くをAIが支援・代替できる時代になった。その結果、人間の価値は、知識を作ることから、知識を使いこなすことへ移り始めている。
第2回では、共同化(暗黙知→暗黙知)について掘り下げた。
職人の「背中を見て学ぶ」は、時代遅れになったわけではない。ただし現代では、“どこを見ると勘所が見えるのか”を構造化することが必要になる。
共同化とは単なる経験ではなく、認知モデル更新プロセスなのである。
第3回では、仮に優れた共同化があったとしても、なぜ人は「知っていてもできない」のか。そして、どうすれば“できる”に変わるのか。SECIモデルの内面化(形式知→暗黙知)について掘り下げていきたい。
なぜ「分かる」と「できる」は違うのか
仕事でも教育でも、こんな場面は多い。説明を受け、資料も読み、理解したつもりだった。しかし実際にやってみるとできない。
これは能力不足ではなく、知識が“身体化”されていないことにあると考える。
たとえば自転車。乗り方を本で読んでも乗れるようにはならない。バランスを崩し、失敗し、何度も試しながら初めて乗れる。
IT現場も同じ。障害対応手順を知っていても、実際に障害が起きると動けない。
この理由として、現実は常に情報不足で不確実だからだ。
だから人は、「知識」だけではなく状況判断モデルを獲得する必要がある。これが暗黙知の正体だろう。
内面化とは「経験」ではなく「学習ループ」である
SECIモデルでは、内面化は形式知 → 暗黙知と説明される。つまり、マニュアルや知識を実践し、経験として身につけるプロセスだ。
しかし私は、ここにも再解釈が必要だと思っている。なぜなら「経験すれば成長する」わけではないからだ。同じ10年でも個人での成長差があり、場数を踏んでも変わらない人もいれば短期間で急成長する人もいる。
IT&Scienceの観点では、経験量ではなく、仮説検証の密度と考える。
成長する人は、単に経験しているのではない。経験を使って、自分の認知モデルを更新している。
認知モデルを更新するには、
「観察:何が起きたか」→「仮説:なぜ起きたか」
→「行動:どう試すか」→「結果:何が正しかったか」
→「修正:次にどう変えるか」
というサイクルを回すこと。
これは科学そのもの。つまり、内面化 = 科学的学習プロセスと考えられる。
AI時代ほど「やってみる」が重要になる
AI時代になると、「知識を覚える必要がなくなる」と言われる。これは半分正しいが、半分間違っていると思う。
確かにAIは答えを出せる。だが、答えを“使える知識”に変えるのは人間だ。
AIに、「営業で信頼関係を築く方法」「障害対応の進め方」「良い会議ファシリテーション」など、日々の仕事の悩みを聞けばそれらしい回答は返ってくる。
しかし本当に難しいのは、現場でそれを使えることだ。相手によって違う。状況によって違う。失敗も起きる。だから、試して、ズレを観測し、自分を更新する必要がある。
つまりAI時代ほど、アクションの価値が上がるのである。
ただし、根性論としての行動ではない。重要なのは、仮説検証としてのアクションだ。
ここがIT&Scienceの考え方になる。
「暗黙知を獲得する科学」とは何か
ここまでの話をまとめると、AI時代に重要なのは、知識量の差ではなく、暗黙知生成能力の差になる。そしてその暗黙知は、偶然の才能やセンスだけではない。
「共同化=勘所を見るポイントの構造化」
「内面化=仮説検証サイクルを回すこと」
この2つによって、再現性を高められる。
私はこれを、「暗黙知を獲得する科学」と呼びたい。
これは、AIに勝つ話ではない。AIを前提に、人間の価値を再定義する話である。
AIが形式知を供給する時代。人間は、知識を覚える存在ではなく、知識を使い、試し、更新する存在になる。
そのために必要なのが、理系的思考――つまりIT&Scienceだ。
観察、構造化、仮説設定、試行、修正。この科学的な学習サイクルこそが、AI時代のナレッジマネジメントの中心になる。
SECIモデルは終わったのではない。むしろ今こそ、AI時代に合わせて再構築されるべきなのではないか。
AI時代のSECIモデルの解釈のまとめ
表出化(暗黙知→形式知)
AIに任せる。暗黙知をもった人(ベテラン・経験者)が気づいていないコツを整理し、多くの人がその業務で使えるノウハウを作り出す。
連結化(形式知→形式知)
AIが最も得意なところ。ある業務において誰でも使えるノウハウを複数集めることで、さらに一般化を進めノウハウの適用範囲を広げる。これを通じて組織としてのナレッジに進化する。(組織の強みへの昇華)
内面化(形式知→暗黙知)
人間がアクションを起こすことで獲得する。組織のナレッジを使って業務にあたり、その結果から自分だけが持つ認知モデル(こうすればできるようになるんだー)を更新する。「観察」→「仮説」→「判断・行動」→「結果」→「修正」の繰り返しを意識して行うことで、認知モデルの更新における再現性を高められる。こうして個人の中に勘所が溜まる。
共同化(暗黙知→暗黙知)
人間が人間から学習する、もしくは個人の暗黙知をアップデートしていく。単に知識を学ぶのではなく、勘所はどこなのかを学び、深めていく。そのためには「観察」→「仮説」→「判断・行動」→「結果」→「修正」の繰り返しが必要。実は内面化と全く同じ考え方。個人の中に最強のノウハウが出来上がる。以降、表出化に戻り、組織のナレッジがアップデートされる。
上記の整理から、理系的思考とも言われる「観察」→「仮説」→「判断・行動」→「結果」→「修正」のプロセスこそが、AI時代に人間の価値を最大限高めるために必要だ。
私がIT&Scienceを通じて発信していきたい理由はここにある。
