(お題ss)式日
「月斗!」「星華!」
同時に声が上がった。
月斗と呼ばれた男は、だいぶ遠くから走ってきたようで、膝に手をつき、肩で息をしてる。
星華と呼ばれた女は、白いウェディングドレスを着込んでいるが、セットされた髪の毛は走ったせいで乱れきっている。
「…星華、ごめんな。本当は来ちゃいけないの、分かってる。……でも、どうしても、俺…」
「ううん、言わないで月斗。言葉にしては駄目。…だけど、嬉しい。会えて、本当に」
男女は手を前に差し出すが、今にも触れそうな、お互いの熱が届きそうな距離で止まる。
過去、両想いであった頃とは違う。
少し大人になった、そんな距離で。
星華は差し出していた手をゆっくりと引いて、胸の前で祈るように組む。
「月斗、何度も言うね。本当にありがとう。あなたと居られた時間、今も忘れていない」
そこまで言うと、左目の縁から涙がこぼれた。
涙は頬をなぞり、想いと一緒に跡を残し流れていく。
月斗はそんな彼女にかける言葉が見つからず、手を差し出したままでいた。
風で枝葉が揺れ、鳥が飛び立つのを見て、ようやく手を下ろす。
「…ごめん。待たせ過ぎた、ね」
星華を真っ直ぐ見つめながら、月斗は寂しそうに笑う。
落ち葉が風に流され、月斗の足元をすり抜けるが、音はしなかった。
「星華、おめでとう。俺にはこれしか言えないけど…幸せになって。──俺の分まで」
それだけ言うと、くるりと後ろを振り向き、もと来た道を歩き始める。
少しずつ遠ざかっていく背中が、陽の光に透けて見えた。
やがて、風に溶けるように影も消える。
その背中を星華は、こぼれる涙をそのままに、瞳に閉じ込めるよう最後まで見ていた。
「…月斗」
そう呟く星華の後ろから、黒いタキシードを着た男が走ってきた。
「星華!…ようやく見つけた。控室の窓の外をじっと見てたと思ったら、突然走り出して。急になにかと…」
男は言葉を止め、彼女の涙に目を留める。
星華は小さく首を振って男に応える。
「ごめんなさい。心配させちゃったね。でも、大丈夫。…古い知り合いに会った、気がしたの」
そう言うと、彼に差し出されたハンカチで涙をぬぐう。
拭き終えたその顔は、長い片想いを終わらせたように、どこかすっきりして見えた。
そうして二人は教会に向かって歩き出した。
星華は歩きながら思い出す。
月斗と初めて合った日。
喧嘩した日。
仲直りした日。
将来を誓い合った日。
…事故に遭ったと聞いた日。
泣きながら病院に行ったけど、間に合わなかった日。
そして、月斗との思い出をすべて。
「さよなら…私の片想い」
そっと別れの言葉を風に乗せた。
そして、今、横を歩く人と手を繋ぐ。
男は言う。
「これから、ずっと一緒だね。…絶対幸せにするよ」
星華は黙って頷き、小さく「私も」と言った。
繋いだ手は、しっかりと握られている。
そっと、枝葉が風もないのに揺れた。
まるで二人を祝福するように。
なんとなく、誰かが優しく笑ったような気がして、星華もはにかむように笑った。
そんな星華を、男もまぶしそうに見つめていた。
今日は祝福の日。
「今日の君を、愛してる。これまでも、これからも」
星華に、そして揺れる木々に聞こえるように言った。
暖かい陽の光が二人に降り注いだ。
月か星か決められなくて、一緒に叫んでみました。
いない人への想いは、はたして片想い?
(毎回挑戦してすみません)
お題、ありがとうございます!
