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(お題ss)正しくて優しい言葉たち

 これは、まだ言葉が言葉となる前の話。
まるで冬に枯れ木から葉がはらりと落ちるように。
あるいは砂が落ちきらないあいだに風にさらわれた、冷たい砂漠の朝のように。
 どちらにしたって、自然の摂理の結実。
消えないように、忘れないように。
繰り返した世界の話だ。

 そして君が生まれる前の風景を描く話でもある。
あるいは意味が生まれる前の風景かもしれない。
 どちらだっていい。
その先の世界線がどうなったかは、とうに知っている。
何故なら私は書かれた世界に存在している。
書かれなかった方の世界のことは知らない。
知る由もない。
だってそうだろう?

 全ては隠された夢と希望のせい。
欺瞞もなく誠実だったはず。
いや、高望みをしたことが崩壊を生んだか。
それならば、壊したのは私か。
ふいに痛みが頭をエコーした。
リフレインの果てに脳下垂に焦点が合う。
シナプスが走った。
 繰り返しているのは──世界か。
私か。
あるいは──。

 頭が意味を拒んでいる。
言葉が意味を拒んだ場所で、私の存在ごと拒んでいる。
 立ち尽くす床が溶け出した。
地平線までひび割れていく。
割れる歪む溶ける、果てる。
刹那に光が溢れ出した。
「光在れ──光在れ!」

 声を発するのに空気は震えず、言葉は言葉とならない。
意味もまた生まれない。
 まだ物語にならない場所では、ただ光り輝くのみ。
その鮮やかな光を説明する言の葉もまた無く、涙がただただ溢れていった。
「ありがとう。さようなら」

 喉で溶けゆく言葉を飲み込んだ。
ひび割れた地面に涙が染みる。
収束していく。
発作のような過呼吸。
 繰り返して、繰り返す。
永遠の木に寄り添って有限を掴んだ。
闇が落ちてくる。
風に乗って、はらり。
静かな空。
静寂だけが残った。

 その日、またページがめくられた。
世界は次へと移行していく。
知らない世界線が意味をなした。

 ここにいる私は、書かれた世界の私か。
あるいは演算機構の私か。
今は、どの世界にいる?

後記)
最近あまり参加できていませんでしたが、書ききれて嬉しかったです。
お題を見て、唸るよりも指を思うままに走らせました。
結果、心象風景が嵐のように渦巻いて、何かしらの世界を造ったようです。
多分、作家が文を作る時の心を語っているのかと思います。
葛藤、知らない世界、その先へ至るために。
私の文体も書いていたり、書かされていいたり。
今、どの世界にいる?は自分に向けた問いでもあります。
いずれにしたって、読み方はお任せします。
それが言葉なので。

 #3つのお題に空想のひらめきを 【第28回】

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