(お題ss)夏の喧騒と幻想
昼下がり。
夏は、いまだにセミともにあって、騒がしく空を揺らしている。
背中にかいた汗には、ビールの冷たさがちょうど良い。
そうして、もうあと数時間を、ただ待つ。
見上げた太陽は、トマトのように赤く熟れている。
目の前にある冷製トマトの優しさと比較し、思わず苦笑い。
「あぁ。そろそろ着替えるか」
独り言を合図にして、コップを机に置いた。
まだ、ほんの少し酔いは残っているが、それはそれで都合が良い。
もう、あと一時間ほど。
着替えて、ただ待つ。
クリーニングから帰ってきたままだった、ちょっとした服は、いつの間にか窮屈になっていた。
心も落ち着かず、意味もなくテレビをつけた。
いつもは見ないワイドショーでは、ブライダルの特集をしている。
しばらく見ていたが、他人事に思えず、そっとテレビを消す。
遠くで妻が笑った音がした。
「そんなに緊張しないで、いつも通りでいなさいな」
そんな声が、蚊取り線香の煙と一緒に届いた。
──ピンポーン。
インターホンが鳴る。
もう、時間がきた。
「ただいま」
いつもの娘の声。
三年前に一人暮らしを始めてから、毎日は会えなくなった。
けれど、間違えようのない声。
「お邪魔します」
被せるように知らない男の声。
せっかく着替えた服に、汗がにじんだ。
なんの話をされるのかは、知っている。
妻が玄関から二人を連れてくる。
顔を見る勇気がなく、首元を見た。
「座って──ビールでも、飲もうか」
辛うじて、それだけを言った。
喉は、酷く乾いている。
リフレッシュしたら、スラスラとかけました。
お題、ありがとうございます!
