(お題ss)伝わっていく
脈々と、右手から左手に音が伝播していく。
恐らくは、胸の内よりは少し優しい響きだろう。
本当の気持ちが伝わったら──なんて思ったけど、自分の本当すら分からない。
今、この瞬間に、同じ空の下にいる。
同じ空気を吸い、ほんの少し体を寄せ合って、前を向いて歩いていく。
横目で見たら目が合って、浮かべた笑顔が眩しい。
太陽に顔を向けて、大したことないなって思ってしまった。
強い風が吹いて、思わず目を閉じた。
気がつくと手が自由になって、何も無い空気を掴んでいた。
右を見ると誰もいない。
空になった手から、あの熱が徐々に失われていくのを、ただ見つめていた。
鼓動は高鳴っていく。
もう、優しくない響きに変わった。
心臓は誰かを探すように、体を跳ね回る。
世界をぐらりと揺らす。
冷たい風がびゅうと吹いたら、視界が遮られた。
黒い世界で一人きり。
悲しみの闇に包まれたまま、手で顔をなぞった。
冷たい──けれど、温かさのある手。
知らないはずなのに愛おしい、柔らかい手。
さっきまで確かな熱で繋がっていた温もり──。
僕の両手で、目の前の両手を包んだ。
「だーれだ」
その声が響くだけで、黒い世界は彩りを取り戻した。
手から手に、脈々と流れていく。
感情を乗せて、時折、微笑みあって遊びながら。
お題から少し離れて、書いてなかったものばかりと向き合ってみました。
たまにはそういうのも、いいですね。
