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rich_poppy335
好き化粧 #毎週ショートショートnote#好き化粧
死に化粧師の仕事は、顔を整えることではない。
「この人は、どんな顔で生きてきたか」を思い出させることだ。
強い人には、眉を少し太く。
やさしかった人には、唇をすこし上げて。
それだけで、関係者は「ああ、この顔だ」と目を伏せる。
ある日、彼女の前に運ばれてきたのは、長いキャリアを持つ女優だった。
写真は山ほどあるが、どれも顔が違う。
清楚な恋人、冷酷な殺し屋、滑稽な家政婦。
役の数だけ顔があり、「本当の顔」がどれなのか、わからなかった。
決めかねていると資料の束の底に、一枚だけぼやけたスナップ写真があった。
それは、役柄の誰でもない、一人の女性として、少し照れたような顔。
先に亡くなった夫とのツーショット写真。
この人はこの自分の顔が一番好きだった。
彼女はそう確信し、その微かな高揚感だけを、筆先でそっと再現した。
通夜の席、弔問客たちは困惑した。
銀幕のスターの面影がないからだ。
けれど、長年連れ添ったマネージャーだけが、棺を覗き込み、『ああ、いい顔だ』と子供のように泣いた。
