『地元に帰省したら、初恋の先輩がどタイプなビジュになってて無理』
三月末。
四年間暮らした東京の部屋から、最後の段ボールを送り出した日のことを、山川宇衣はたぶん一生忘れない。
大学の卒業式を終えたばかり。
四月からの就職先は、地元・宮城。
つまり――四年ぶりに、本当の意味で帰ることになった。
「……終わったぁ」
新幹線の座席へ深く身体を沈め、宇衣は小さく息を吐いた。
大学生活。
楽しかった。
友達もできた。
東京にも慣れた。
一人暮らしだって、最初こそ寂しくて仕方なかったけれど、最後にはすっかり自分の生活になった。
けれど。
宇衣が十八歳で宮城を離れた理由を一つだけ挙げろと言われれば。
それはきっと――。
『○○先輩に見合う女の人になりたい』
そんな、誰にも言わなかった願いだった。
高校時代。
宇衣はバスケットボール部のマネージャーだった。
そして一つ上の○○は、そのバスケ部のキャプテン。
初めて好きになった人。
初恋だった。
告白はしていない。
できなかった。
当時の宇衣にとって○○は、少し遠すぎた。
キャプテンとして部員を引っ張り、後輩から慕われて、試合になれば誰より頼もしい。
そのくせ普段は妙に適当で。
「宇衣ー、テーピングどこ?」
「昨日○○先輩が使ってそのままにしたところです!」
「あー……そうだった」
「ちゃんと片付けてください!」
「宇衣ちゃん怖いなぁ」
「誰のせいですか!」
そんな会話だけで、一日幸せになれた。
けれど高校生だった宇衣は、自分に自信がなかった。
だから○○が卒業して一年。
自分の進路を決める時。
宇衣は東京の大学を選んだ。
○○を追いかけるためではない。
むしろ逆だった。
一度、離れようと思った。
知らない街へ行って。
知らない人たちと出会って。
いろんなものを見て。
もっと大人になって。
もっと綺麗になって。
いつか○○と再会した時。
胸を張って隣に立てる女性になりたかった。
――そのはずだった。
「……四年かぁ」
車窓を眺めながら呟く。
四年間、○○との連絡が途絶えたわけではない。
ただ、頻繁ではなかった。
毎日LINEするような関係ではない。
誕生日。
正月。
何か大きな出来事があった時。
それくらい。
なのに。
宇衣が本当に辛い時だけは。
決まって、○○に電話をかけた。
大学一年の五月。
初めての一人暮らしに耐えられなくなった夜。
『……もしもし』
「○○先輩……」
『宇衣? どうした?』
声を聞いた瞬間、泣いた。
二年生。
人間関係で悩んだ夜。
三年生。
就活が始まり、周囲と比べて焦り始めた夜。
四年生。
第一志望の企業に落ちた夜。
いつだって○○は出てくれた。
深夜一時でも。
仕事がある日の夜でも。
『大丈夫、大丈夫』
『宇衣ならなんとかなるって』
『別に今日答え出さなくてもいいだろ』
『眠くなるまで話してやるから』
何時間でも付き合ってくれた。
宇衣が泣き疲れて、
「……○○先輩、まだいます?」
と聞けば、
『いるよ』
と返ってくる。
だから四年間。
東京でいろんな男性と知り合ったのに。
告白されたことだってあったのに。
宇衣の初恋だけは、一度も終わらなかった。
そして今日。
四年ぶりに。
その人と会う。
「…………」
宇衣はスマートフォンを開く。
地元の友達から届いているメッセージ。
『今日19時な!』
『宇衣おかえり会!!!』
『○○も来るってよ』
最後の一文を見る。
「……知ってる」
知っているから。
昨日からずっと緊張している。
*
「宇衣ー!」
「おかえりー!」
「ただいまぁ!」
夜。
地元の居酒屋。
久しぶりの友人たちに囲まれた宇衣は、東京ではなかなか出なかった地元の空気を全身で浴びていた。
「全然変わってねえじゃん!」
「変わったし!」
「いや垢抜けたよ、宇衣」
「ほんと?」
「東京の女になって帰ってきた」
「何それ」
笑う。
楽しい。
懐かしい。
けれど宇衣は店へ入った瞬間から、一つだけ気になっていた。
――まだ来てない。
○○がいない。
時計を見る。
十九時十二分。
「○○、仕事長引いてるって」
誰かの言葉に、
「あ、そうなんだ」
できるだけ普通に答える。
別に待ってないですよ。
そんな顔をする。
十九時二十分。
十九時二十八分。
そして。
十九時三十四分。
「悪い、遅れた」
聞き覚えのある声。
宇衣の肩が跳ねた。
振り返る。
「…………え」
時間が止まった。
本当に。
冗談でも比喩でもなく。
宇衣の中では数秒間、居酒屋の音が全部消えた。
○○がいた。
四年前より少し伸びた髪。
ラフに崩した、無造作な緩めのパーマ。
高校時代にはなかった黒縁のメガネ。
白いTシャツ。
その上から羽織ったオンブレチェック柄のシャツ。
下は白系のパンツ。
派手ではない。
けれど綺麗で。
大人っぽくて。
宇衣が東京で四年間過ごすうちに出来上がった、
『こういう男性の服装好きだな』
『こういう髪型好き』
『メガネ似合う人いいな』
その全部。
全部が。
初恋の男に搭載されていた。
「……は?」
宇衣の口から思わず声が漏れた。
○○がこちらを見る。
そして。
「あ」
笑った。
「宇衣」
心臓が。
どくん。
と、大きく鳴った。
「久しぶり」
無理。
宇衣は思った。
本当に無理。
四年間。
頑張った。
○○に見合う女性になりたくて。
少しは大人になったつもりだった。
なのに。
当の本人が。
四年前より遥かに。
宇衣の好きな男になっている。
○○が近づいてくる。
「卒業おめでとう」
「…………」
「宇衣?」
「……近いです」
「え?」
「なんでもないです!」
顔が熱い。
絶対赤い。
○○は不思議そうな顔をしながら宇衣の隣へ座った。
「元気だった?」
「……元気でした」
「四年ぶりか」
「ですね」
「全然そんな感じしないな」
「電話してましたから」
「ああ」
「私が病んだ時だけ」
「ははっ」
笑う○○。
その横顔。
メガネ。
緩いパーマ。
少し大人になった輪郭。
宇衣はジョッキを持ち上げながら思った。
――やばい。
――なんか○○先輩……好きすぎる。
これまでだって好きだった。
でも。
こんなの聞いていない。
初恋補正だけでも十分なのに。
見た目まで好みのど真ん中になっている。
「宇衣」
「はいっ!?」
「……何その反応」
「なんでもないです」
「俺の顔になんかついてる?」
「ついてません」
「めっちゃ見てるから」
「見てません」
「見てたって」
「見てません!」
○○が笑う。
宇衣はお酒を飲む。
もう一口。
さらに一口。
「宇衣、ペース早くない?」
「○○先輩のせいです」
「俺?」
「……なんでもない」
*
飲み会開始から二時間。
宇衣はそれなりに酔っていた。
完全に潰れるほどではない。
でも、普段なら口にしないことが少しずつ漏れる程度には。
そして隣にはずっと○○がいた。
「先輩」
「ん?」
「メガネいつからですか」
「去年くらい」
「なんで?」
「仕事でPC見る時間増えて。目疲れるから」
「へぇ……」
じー。
「だから何でそんな見るんだよ」
「似合ってる」
「ありがと」
「……すごく似合ってる」
「そんな褒める?」
「だって好きだから」
「……え?」
宇衣が固まる。
○○も固まる。
「…………」
「…………」
「メガネが」
「……ああ」
危なっ。
宇衣は心の中で頭を抱えた。
危なすぎる。
しかし○○は何か考えるように宇衣を見ていた。
「宇衣」
「はい」
「東京楽しかった?」
「楽しかったですよ」
「彼氏とかできた?」
「……できてないです」
「四年間?」
「四年間」
「意外」
宇衣はムッとする。
「何ですかそれ」
「いや、宇衣普通にモテそうだし」
「告白されたことはあります」
「じゃあ何で?」
その質問に。
酔った頭は、素直だった。
「好きな人いたから」
○○の表情が止まる。
「……東京に?」
「違います」
「じゃあ地元?」
「そうですね」
「今も?」
宇衣はジョッキを置いた。
「……ずっと」
今度は○○が黙った。
宇衣は顔を見られなくなり、テーブルへ視線を落とす。
少しだけ。
本当に少しだけ。
空気が変わった気がした。
*
「じゃ、宇衣おかえりー!」
「また飲もうな!」
「うん、ありがとー!」
店を出たのは二十三時前。
それぞれが駅やタクシーへ散っていく。
宇衣も帰ろうとしたところで。
「宇衣」
振り返る。
○○だった。
「送るよ」
「え、大丈夫ですよ」
「飲んでるだろ」
「○○先輩も飲んでるじゃん」
「だから歩いて送る」
「……家、方向違いますよね?」
「いいよ別に」
昔から。
こういう人だった。
宇衣は少し迷って。
「じゃあ……お願いします」
二人で歩き出した。
三月末の宮城。
夜はまだ寒い。
「寒っ」
宇衣が肩をすくめる。
すると○○が、
「手、冷たい?」
「え?」
宇衣の手を取った。
「…………」
指先を包まれる。
「やっぱ冷たいじゃん」
宇衣は完全に停止した。
「……○○先輩」
「ん?」
「これ、普通に手繋いでません?」
○○も気づいたらしい。
「あ」
「あ、じゃないです」
けれど。
離さない。
むしろ少し握り直された。
「嫌?」
ずるい。
「……嫌じゃないです」
「じゃあいいじゃん」
「よくないです」
「どっちだよ」
「心臓に悪いって意味です」
○○が宇衣を見る。
「宇衣さ」
「はい」
「今日なんか変じゃない?」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「俺らしいけど理由が分からん」
「……先輩が」
宇衣は繋いだ手を見る。
「カッコよくなりすぎなんですよ」
「は?」
「高校の時も好きだったのに……」
言ってから。
止まった。
○○も止まった。
宇衣はゆっくり顔を上げる。
「…………あ」
終わった。
言った。
ついに。
四年間。
いや、高校時代からならもっと長い間。
胸の中だけにしまっていた言葉。
○○が宇衣を見ている。
「今……」
「忘れてください」
「無理だろ」
「お願いします」
「高校の時も、って言った?」
「言ってません」
「言った」
「酔っ払いの戯言です」
「宇衣」
逃げようとした。
でも手を繋いでいる。
○○が離してくれない。
「俺だったの?」
宇衣は俯いた。
もう。
ここまで来たら。
逃げても仕方がない。
「……そうですよ」
小さく答える。
「ずっと○○先輩です」
「……マジ?」
「マジです」
「四年間?」
「もっと前から」
○○は何も言わない。
宇衣は泣きそうになった。
「私が東京行った理由の一つも……○○先輩だった」
「俺?」
「先輩に見合う女性になりたかったんです」
声が震える。
「高校生の私は、先輩の隣にいる自信なくて」
「……」
「だから東京行って、いろんな経験して、大人になって……いつか帰ってきた時に、○○先輩に女の人として見てもらえたらいいなって」
そこまで言うと。
○○が宇衣の手を引いた。
「え――」
身体が胸元へ飛び込む。
抱き締められた。
「…………先輩?」
「それ、もっと早く言ってよ」
耳元で聞こえた。
「え?」
「俺も四年間、宇衣に彼氏できたらどうしようって思ってた」
宇衣の頭が真っ白になった。
「……何、それ」
「東京行ったし、絶対そのうち彼氏できると思ってた」
「じゃあ……」
「電話来るたび嬉しかったよ」
○○の腕に力が入る。
「頼ってくれるのも」
「……」
「俺にだけ弱いところ見せてくれるのも」
宇衣は○○の服を掴んだ。
「好きだったんですか」
「うん」
「私を?」
「うん」
「いつから?」
○○が少し笑った。
「宇衣がまだマネージャーだった頃から」
「……は?」
宇衣は身体を離し、○○を見る。
「ちょっと待って」
「はい」
「じゃあ私たち……」
「たぶん高校の時から両想い」
「…………」
宇衣は両手で顔を覆った。
「最悪!」
「なんで!?」
「四年間なんだったの!?」
「それ俺も思ってる!」
「言ってくださいよ!」
「宇衣が東京行くって言ったから邪魔したくなかったんだよ!」
「私も先輩に見合う女になりたかったから言わなかったんです!」
二人で顔を見合わせる。
数秒。
そして。
同時に笑った。
「……馬鹿みたい」
「ほんとにな」
宇衣は笑いながら。
少し泣いた。
「○○先輩」
「ん?」
「私……ちゃんと大人になれました?」
○○が宇衣を見る。
「なったよ」
「先輩に見合います?」
「むしろ俺が心配になるくらい」
「じゃあ」
宇衣は一歩近づいた。
「ちゃんと女の人として見てください」
○○の目が揺れる。
「宇衣」
「はい」
「キスしていい?」
心臓が跳ねる。
高校生の頃。
何度も夢見た。
四年間。
何度も想像した。
宇衣は目を閉じる。
「……してください」
唇が重なった。
最初は。
触れるだけ。
一度離れて。
互いの顔を見る。
宇衣は恥ずかしくて笑ってしまった。
「……ほんとにした」
「したな」
「もう一回」
今度は宇衣から近づいた。
二度目は少し長い。
唇が離れると、宇衣はそのまま○○の胸へ額を押しつけた。
「無理……」
「何が?」
「幸せすぎる」
○○が笑いながら頭を撫でる。
「宇衣」
「はい」
「付き合おうか」
宇衣は顔を上げた。
「……今更?」
「確かに今更だな」
「四年遅いです」
「じゃあやめる?」
「やめません!」
即答だった。
○○が笑う。
宇衣も笑う。
「よろしく、宇衣」
「……よろしくお願いします」
「まだ敬語?」
「だって○○先輩だし」
「彼氏になったけど」
「…………」
宇衣は真っ赤になった。
そして。
ものすごく小さな声で。
「……○○」
呼んだ。
○○が固まる。
「もう一回」
「嫌です」
「宇衣ちゃん」
「嫌」
「お願いします」
「……○○」
今度は抱き締められた。
「ちょ、苦しい!」
「可愛すぎる」
「知らない!」
*
そのまま別れるには。
四年間は、少し長すぎた。
気づけば宇衣は○○の部屋にいた。
社会人になった○○が借りた、一人暮らしの部屋。
「……ほんとに来ちゃった」
「今なら帰れるよ」
「帰りません」
ソファに座りながら宇衣が答える。
○○が隣に座る。
距離が近い。
さっきまで外だったから耐えられた。
二人きりになると、途端に意識してしまう。
恋人。
今日から。
○○が。
初恋だった人が。
彼氏。
「宇衣」
「ん……」
顔を向けるとキスされた。
「……急」
「嫌だった?」
「その質問ずるい」
「じゃあ?」
宇衣は○○のシャツを掴む。
「もっと」
また唇が重なる。
今度は外で交わしたものより、ずっと長かった。
宇衣の腕が○○の首へ回る。
離れたくない。
四年間分。
ずっと触れられなかった時間を埋めるみたいに抱きつく。
「……宇衣」
「○○」
名前を呼ぶ。
まだ恥ずかしい。
でも。
嬉しい。
○○の腕に抱えられたまま、宇衣はベッドへ倒れ込んだ。
「待って」
「ん?」
「メガネ」
宇衣が○○の眼鏡へ触れる。
「これ好き」
「今日ずっと言ってるな」
「だって本当に好きなんだもん」
「じゃあつけとく?」
「……うん」
○○が笑う。
「変な宇衣」
「うるさい」
宇衣はそのまま頬へ手を添えた。
「○○」
「ん?」
「四年間、電話出てくれてありがとう」
○○の表情が柔らかくなる。
「何時でも出てくれた」
「うん」
「私が泣いても、ずっと話聞いてくれた」
「うん」
「東京で頑張れたの……○○がいたからだよ」
今度は。
○○から抱き締められた。
宇衣も背中へ腕を回す。
「帰ってきてくれてありがとう」
「……ただいま」
「おかえり、宇衣」
その言葉が。
今日一番嬉しかった。
宇衣は目を閉じる。
再びキス。
何度も。
頬。
額。
唇。
触れるたび、四年間離れていた距離がなくなっていく。
やがて二人は布団の中へ潜り込んだ。
宇衣は○○の胸元へ身体を寄せる。
「……ねえ」
「ん?」
「明日起きても彼氏?」
「彼氏」
「東京戻っても?」
「もう戻らないだろ」
「あ、そっか」
「宇衣、酔ってる?」
「ちょっと」
笑いながら、指を絡める。
「○○」
「ん?」
「好き」
「俺も」
「……もっと言って」
「好きだよ、宇衣」
嬉しくて。
宇衣は胸元へ顔を埋めた。
「高校の時から?」
「高校の時から」
「四年間も?」
「四年間」
「今も?」
「今が一番」
「……ずる」
顔を上げてキスする。
「私も」
「ん?」
「高校の時も好きだった」
「うん」
「東京にいた四年間も好きだった」
「うん」
「でも」
宇衣は○○のメガネを指先で少し持ち上げる。
「今が一番好き」
「それ、見た目込み?」
「かなり込み」
「正直だな」
「だって本当にどタイプなんだもん」
笑う。
○○も笑う。
そのまま宇衣は彼の腕の中へ収まった。
高校生だった頃。
体育館の隅から、キャプテンとして走り回る○○を見ていた。
好きだった。
でも。
届かないと思っていた。
だから離れた。
四年間。
東京で頑張った。
いろんなことを経験した。
泣いた。
笑った。
挫折した。
成長した。
そのたび電話の向こうには、○○がいた。
そして四年後。
ようやく帰ってきた。
「○○」
「ん?」
「私、東京行ってよかった」
「なんで?」
「だって」
宇衣は少し笑う。
「ちゃんと○○の隣に帰ってこられたから」
○○は何も言わず。
ただ、宇衣を強く抱き締めた。
翌朝。
宇衣が目を覚ますと。
すぐ隣に○○がいた。
「…………」
昨日の記憶が一気に戻ってくる。
飲み会。
再会。
手を繋いだ。
告白した。
両想いだった。
キスした。
付き合った。
そして――一緒に眠った。
「……やば」
布団へ顔を埋める。
幸せすぎて無理だった。
すると。
「宇衣」
「っ!」
起きていた。
「おはよ」
寝起きの声。
ボサボサになった緩いパーマ。
メガネは外している。
昨日とは違う。
これはこれで。
「……好き」
「朝一発目それ?」
「だって好きなんだもん」
○○が笑う。
「おいで」
腕を広げられる。
宇衣は迷うことなく飛び込んだ。
抱き締められる。
「○○」
「ん?」
「今日何する?」
「宇衣は?」
「特にない」
「じゃあ一緒にいる?」
「いる」
「明日は?」
「いる」
「仕事始まったら?」
「会う」
「即答だな」
宇衣は○○の胸元から顔を上げた。
「四年間離れてたんだから」
そして。
少し照れながら。
それでもはっきりと。
「これからは、いっぱい一緒にいたい」
○○が笑った。
「俺も」
朝の光の中。
また唇が重なる。
四年前。
好きな人に見合う女性になりたくて。
宮城を離れた。
そして四年後。
少しだけ大人になって帰ってきたら。
初恋の人は。
緩いパーマに。
メガネ。
白T。
オンブレチェックのシャツ。
白いパンツ。
社会人になって少し落ち着いた、大人の雰囲気。
――宇衣のどタイプそのものになって待っていた。
だから。
たぶんこれは仕方がない。
「○○」
「ん?」
「今日も好き」
「知ってる」
「明日はもっと好き」
「重いなぁ」
「四年分なので」
「じゃあ受け止めます」
「お願いします」
宇衣は笑って。
もう一度。
ずっと好きだった人の胸へ飛び込んだ。
四年間終わらなかった初恋は。
地元へ帰ってきた春。
ようやく――。
恋人との恋に変わった。
