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在庫・生産分析:来月の「見立て」を3本立てる

「来月どれくらい売れるか、AIなら当ててくれるんでしょう?」

在庫や生産の話になると必ず聞かれる質問だ。
先に正直に答えておく。

当たらない。

ChatGPTのような汎用AIは時系列の専門モデルではない。過去のデータからもっともらしい数字を1本出すことはできる。でも、その1本を信じて発注するのは危ない。

では、在庫と生産にAIは使えないのか。
使える。使い方が違うだけだ。


当てられないなら、どう使うのか

数字を1本当てさせるのではなく見立てを3本、整理させる。

強気。普通。弱気。

それぞれに前提条件をつけて机の上に並べる。

実はこれは需給の会議で昔からやられてきたことだ。
ベテランが頭の中でやっていた「上に振れたらこう、下に振れたらこう」をデータから取り出して見えるようにする。AIはその整理が速くて上手い。

そして、3本のどれに寄せて発注するかを決めるのは、あなたと上司だ。
ここは最後まで、人間の仕事である。

見立て3本を、どう頼むか

その前に30秒だけ現在地の話をする。

見立ての前には現状の整理があるとよい。
「全商品を売上金額・販売数量・在庫金額で分類して、動きの鈍い在庫を挙げてください。」
いわゆるABC分析だ。倉庫のどこにお金が寝ているかが先に見えていると、3本の見立ての意味がまるで変わってくる。

その上で本題に入る。

プロンプト①:来月の見立て3本

【目的】
来月のカテゴリ別出荷数量について判断材料になる3つのシナリオを作る。

【前提データ】
過去6ヶ月以上の出荷実績(前年同月の実績もあると季節の癖まで見える)。

【プロンプト全文】

過去の出荷実績をもとに、来月のカテゴリ別出荷数量について
「強気」「普通」「弱気」の3つのシナリオを整理してください。

・各シナリオの前提条件を明記してください(例:前年同月並み/直近3ヶ月の平均が続く/直近の減少傾向が続く)
・3つの数字の幅が特に大きいカテゴリを挙げ、なぜ幅が大きくなるのかを説明してください
・発注量の提案はしないでください。判断材料の整理までにしてください

【出力の見方】
見るのは、3本の「幅」だ。幅が狭いカテゴリは安定している。
幅が広いカテゴリこそ人間が現場の情報を持ち寄って議論すべき場所だ。
幅は不安の正体を教えてくれる。

【注意点】
発注量と安全在庫の最終判断は必ず人間が行う。
AIの数字をそのまま発注書に写さない。
プロンプトの最後の一文は、そのための予防線だ。消さずに使ってほしい。

プロンプト②:不良率と歩留まりの推移(製造編)

【目的】
生産系のデータから悪化している工程を特定する。

【前提データ】
工程別の不良率・歩留まりの月次データ(あれば原価の情報も)。

【プロンプト全文】

工程別の不良率と歩留まりの月次推移を整理してください。

・直近3ヶ月で悪化している工程を挙げてください
・悪化が原価に与える影響を、データから言える範囲で説明してください
・原因の仮説を挙げる場合は、「データから言えること」と「推測」を必ず分けてください

【出力の見方】
価値は「どの工程が、いつから」の特定にある。
原因そのものは材料のロット、設備、人の交代——データの外にあることが多い。特定された工程を現場に見に行くための地図として使う。

【注意点】
ある部品メーカーは不良の原因を成分値のデータから追い詰めていった。
このときも、データが出したのは候補で、確かめたのは現場の技術者だった。
#06で書いた原則がここでも生きる。候補はAI、確定は人間。

3本立てて、それで終わりでいいのか

終わりではない。落とし穴が2つある。

1つ目。3本作ったのに「普通」しか見ないこと。

それなら1本と同じだ。弱気に転んだら在庫と資金繰りはどうなるか。強気に乗るなら欠品のリスクをどこまで許すか。3本を並べて初めて会議は「当てもの」から「備えの議論」に変わる。

2つ目。「AIが出した数字です」と前提を外して報告すること。

見立ては、前提条件とセットで1つの情報だ。前提を外した瞬間ただの当てずっぽうになる。報告するときは必ず前提ごと出す。

最後にひとつだけ。

在庫は、現金が形を変えたものだ。

だからこの分析はあなたが任された仕事の中でいちばん経営に近い。
見立て3本を持って会議に座るあなたはもう十分に戦力である。

当てる人ではなく備えを並べられる人。現場が信頼するのは、いつだって後者だ。


📝 この章のチェックリスト(3点)

  • 見立ては前提条件つきで3本あるか

  • 発注・安全在庫の判断をAIに委ねていないか

  • 数字の幅が大きいカテゴリを現場の情報で確かめたか


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