質問の型と、検算の型
はじめて会社の実データをAIに読ませた週のことを想像してほしい。
得意先別の前月比の表が30秒で返ってきた。きれいだ。整っている。このまま会議資料に貼りたくなる。
——ここに、この連載でいちばん大事な5分がある。
AIの事故でいちばん多いものは何か。もっともらしい嘘の話をでっち上げることだと思われている。たしかにAIは平気で嘘をつくことがある。
だが、現場で実際に多い事故はもっと地味だ。
集計ミスだ。
行をひとつ読み落とす。同じ行を二度数える。「売上」を税込と税抜で取り違える。しかも、間違えた表はもっともらしい顔をしている。だから怖い。
会議で誰かが電卓を叩いて「これ、合計が合わなくないか」と言う。あなたが迎えたくない場面の筆頭だ。
この回ではそれを防ぐ型を2つ渡す。質問の型と、検算の型。
この連載の残り全部で使い続ける道具だ。
良い質問とは、何か
答えから言う。
「誰が・何を・どう見たいか」が入っている質問だ。
悪い例から見る。
「売上データを分析して」
AIは困らない。それらしい答えが返ってくる。だが第2回で書いたとおり、困りごとから出発していない質問は誰の行動にもつながらない答えを生む。
これを型に入れ直す。
「営業会議で課長が見ます。4〜6月の売上を、得意先別に、前年の同じ3ヶ月と比べて、減った金額が大きい順に表にしてください」
入ったのは3つの要素だ。
誰が——読む人・使う人(営業会議で課長が)。
何を——対象と期間(4〜6月の売上を)。
どう見たいか——比較軸・並び順・形(前年同期比・減った順・表で)。
もう1組。
「在庫、やばいかどうか見て」
これを型に入れるとこうなる。
「発注担当の私が使います。商品別の在庫数と直近3ヶ月の平均販売数から、このままでは2ヶ月以上売り切れそうにない商品を、在庫金額の大きい順に挙げてください」
とくに効くのが「誰が」だ。読む人を伝えると、AIは言葉の粒度と説明の深さを変えてくる。
第2回の定義——困りごとをデータへの問いに翻訳する——を手で実行する型が、これだ。
型を使ったプロンプトを1本渡しておく。
【目的】
営業会議に出すカテゴリ別の増減表を検算の指示込みで作らせる。
【前提データ】
第3回で使った架空の雑貨店の月次売上20行。あなたの手元の(第4回の確認を通した)実データでもいい。その場合は列名を読み替える。
【プロンプト全文】
あなたはデータ分析のアシスタントです。
貼り付けた月次売上データを、以下の条件で集計してください。
【誰が見るか】週次の営業会議で、店長が見ます。
【何を】2025年3月〜6月の売上データ。
【どう見たいか】
・カテゴリ別に、月ごとの売上金額を並べた表
・6月が5月と比べて増えたか減ったかの一覧(減った金額が大きい順)
最後に、あなたが作った表の売上総合計と、元データの売上総合計を
それぞれ示し、一致しているか確認してください。
【出力の見方】
会議で話すのは「減った」側からだ。増えた話は誰も困らない。減った金額の大きい順という並びがそのまま議題の順番になる。
【注意点】
最後の一文でAI自身に検算を申告させている。ただし、この自己申告を信じきってはいけない。最終確認は、次のあなたの検算だ。
検算は、どうやるのか
答えは3つ。私はこれを検算3点セットと呼んでいる。
検算3点セットとは、合計一致・件数一致・3行突合の3つである。この連載では以降すべての章でこの3つを繰り返す。名前ごと覚えてほしい。

1つ目、合計一致。
元データの売上をExcelで範囲選択すると画面の下に合計が出る。関数は要らない。その数字とAIの表の総合計を見比べる。
2つ目、件数一致。
同じく範囲選択で「データの個数」が出る。元が20行ならAIも20行分を数えているか。行の読み落としも重複の二度数えも、ここで見つかる。
3つ目、3行突合。
元データから3行選ぶ。いちばん大きい行、いちばん小さい行、どこか真ん中の1行。その3行がAIの表で同じ数字になっているか、目で確かめる。
3つ合わせて、5分で終わる。
これは、AIを疑う作業ではない。歯磨きと同じ、ただの儀式だ。
儀式にしてしまえば怖さは消える。
落とし穴を1つ。
検算が通ったら分析は正しい——ではない。
質問が悪ければ、「正しく集計された、誰も使わない表」ができあがる。
質問の型と検算の型は両輪だ。片方だけでは走らない。
型は地味だ。
だが型を持つ人は速い。毎回迷わないからだ。週30分で回り続ける秘密は才能ではなく型にある。
次回からは業務別の実践に入る。
最初は、データの下ごしらえ。
「うちのデータは汚すぎて無理」と思っているあなたのための章だ。
📝 この章のチェックリスト(3点)
質問には「誰が・何を・どう見たいか」の3要素を入れる。とくに「誰が」。
AIの最頻事故は嘘ではなく集計ミス。もっともらしい表ほど検算する。
検算3点セット=合計一致・件数一致・3行突合。毎回5分の儀式にする。
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