別荘から、たった22分。良寛は、こんなにも近くにいた。
見附の家を出る。
エンジンをかけると、街の景色はすぐに田園へ変わる。
信濃川を渡り、山が少しずつ近づいてくる。
カーナビは「22分」と表示している。
たった、それだけだ。(長岡市公式サイト)
この数日、私は『耳で味わう 良寛のことば365日』の春・夏・秋・冬、四巻を書き続けてきた。
Kindleに並んだ四冊の表紙を眺めながら、ふと思った。
「そういえば、良寛は、ここから本当に近かった。」
地図を開く。
見附から木村家。
22分。
良寛が晩年を過ごした場所だ。貞心尼と出会い、最後の日々を送り、その近くの隆泉寺に眠っている。(新潟県公式ウェブサイト)
さらに車を走らせれば、日本海。
潮の匂いが風に混じり始める。
良寛が見つめた海。
その向こうには、母の故郷・佐渡島がある。
良寛堂は、その佐渡を望むように建てられているという。(泉崎町公式サイト)
人は遠くへ旅をしたがる。
飛行機に乗り、異国へ向かう。
もちろん、それも素敵だ。
でも、本当に心を動かす場所というのは、案外、家から30分もかからないところにあるのかもしれない。
私は、この春から新潟で暮らし始めた。
最初は「安かったから買った家」くらいにしか思っていなかった。
ところが、住んでみると、景色が毎日少しずつ違って見えてくる。
朝霧。
田んぼを渡る風。
夕暮れの日本海。
そして、その土地に生きた人の時間。
良寛は、何百キロも旅をしなくても、一つの場所で豊かな人生を生きた。
子どもたちと遊び、
歌を書き、
書を書き、
静かに笑った。
その空気は、今もこの土地に残っているような気がする。
だから今回の『耳で味わう 良寛のことば365日』は、本を書くというより、その土地の空気を少しだけ耳に乗せて届ける仕事だったのかもしれない。
ページをめくる代わりに、
Kindleの読み上げ機能で耳を傾ける。
すると、良寛のことばは、不思議なくらい現代の生活になじむ。
車を運転しながらでも、
散歩しながらでも、
眠る前でも。
静かに心へ入ってくる。
次の休日は、22分だけ車を走らせてみようと思う。
木村家を訪ね、
隆泉寺で手を合わせ、
そのまま日本海まで出る。
波の音を聞きながら、
良寛が見た空を見上げる。
遠くへ行かなくても、人は旅ができる。
そして、ときどき、その旅は一冊の本から始まる。
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