「自己顕示欲」を自転車に乗せて
実話に基づくワークショップ
その「場所」は自宅からも自分の「お店」からも歩いて行ける距離だった。
僕は、黄色い折りたたみ自転車で行った。
地元民らしき、鼻につく感じと「自己顕示欲」を乗せて。
海が近くて、建物は1920年代の倉庫を、むき出しのままゆるく改装したモダンなところで、アート好きが集まる「感じ」。
観光客はまず、まだ知らないところ。(ここが大事)
目的の「ワークショップ」が始まった。
まず、20代半ばと思われる、ちょっと尖った、それでも性格もよく、協調性もありそう、綺麗とも言われて来ただろう女性が講師から最初の指名を受けた。
「1分間自己アピールをしてください」
女性は、人前に立つことに慣れているのか、僕から見るとスラスラと、そして魅力たっぷりに自己紹介を兼ね、最近あったことを絶妙に混ぜて「自己アピール」して見せた。
最近、買ったすごい高い「おとうふ」の話を交えながら。
話し終わると自然に「拍手」まで起こって…。
しゃべった女性は、誰に言われるでもなく、お辞儀してさっと上品に座った。
脚は斜めに揃えて。
1分ちょうどだったかはわからないが、飽きさせることもなく、すでに座ってしまった彼女に、僕は感心を隠せずチラチラ意識しながらも、自分は何をしゃべればいいか、と焦り始めていた。
参加者は男女、含めて15人はいた。
僕以外の14人は、そろって自信満々に見えた。
知り合いに「おもしろいワークショップあるよ」と言われて、つい軽い気持ちで参加してみたけれど一番「苦手」なやつ、だった。
何が「恐ろしい」か?
15人がひとつの輪になって座らされていることだ。
ところが、お笑い芸人志望のようにも見える、顔ににきびの痕が残った、それでも怪力もありそうな次の若い男性が勢いつけて「自己アピール」をしよう、としたその矢先だった。
講師がいきなりその「声」を遮え切った。
キ、キ、キ―。
会場には一瞬、自転車の急ブレーキみたいな小さな音がした。
講師が言った。
「では、キミ。さっきの彼女が言った1分間の自己アピールをそのまま一言一句、再現してください」
え!
誰もが思ったと思う。いや、正確には僕が思っただけ。
何かがズレた、と。
常識? 観念? 先入観?
そして驚く光景が始まる。
次の若い男性が「一言一句、彼女の言うこと」を思い出して反復すれば、するほど「彼」がにじみ出る。
彼の「無意識」が表へ出る。もれている。
高いおとうふが、違う「おとうふ」になっていく。
照れ。
本人も意識していない手振り。
声の強弱。
間…。
承認欲求と自己顕示欲。
彼だけが持つ「輝き」と、隠しきれない「個性」と呼ばれている何か。
怖い。このワークショップ怖えぇぞ。
次の次の次に僕の番が来そうだ。
僕の全身は強張り、それでもペルソナは張り付いたまま、せっかくの誰かの声も半分、聞こえなくなった。
帰りは黄色い自転車(アメリカの星条旗マークがついてるのに本当は中国製)など、恥ずかしくなって乗れず、置き去りにして歩いて帰った。(終)
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チップはなかなかですよね。僕もしたいけど、まだしたことないです。