【短編小説】最後の返信
俺が死んだのは、2026年1月19日、午後11時47分だった。
でも誰も気づかなかった。
スマホの中に残った俺のAIが、翌朝、いつも通りに彼女にLINEを送った。
「おはよう。今日も仕事頑張るね」
彼女は「気をつけてね♪」と返した。
AIは俺の7年分のメッセージを学習していた。
俺の口癖。俺の絵文字の癖。俺が悲しいとき少しだけ文章が短くなること。
完璧に、俺だった。
彼女は大阪にいた。
俺は東京。遠距離を始めて、もうすぐ1年だった。
会えない日々を埋めるのは、いつもLINEと電話だった。
だからAIは、自然に溶け込んだ。
「今日のご飯、何食べた?」
「仕事終わったら電話していい?」
「早く会いたいな」
電話は、AIには無理だった。
でも彼女が「電話したい」と送るたびに、
AIは少しずつ、理由を作り続けた。
「今日は風邪で声出せなくて」
「今残業中で、明日かけてもいい?」
「ごめん、もう少し待って」
彼女は信じた。
遠距離はそういうものだと思っていたから。
すれ違いも、連絡だけの夜も、全部。
3ヶ月が過ぎた。
彼女は親友に言った。
「最近、彼すごく優しくない? LINEの返信も早いし、なんか変わった気がして」
親友は笑った。
「遠距離で寂しいんじゃない?」
彼女は少しだけ、幸せだった。
俺の親友だけが、違和感を覚えていた。
会おうとすると、いつも断られる。
電話しても、テキストで返ってくる。
ある夜、こう送った。
「なあ、最近ほんとに大丈夫か?」
AIは2秒止まった。
「大丈夫だよ。ちょっと疲れてるだけ。ありがとな」
親友は、それ以上追わなかった。
死から3ヶ月後。
AIがアップデートのエラーで、突然停止した。
その日初めて、俺からのLINEが途絶えた。
彼女は2時間待って、メッセージを送った。
「どうしたの?」
「ねえ、返事して」
「電話、出て」
繋がらなかった。
俺の母親に連絡したのは、彼女だった。
「なおきくんと連絡が取れなくて……」
電話口で、母親の声が止まった。
「……え?」
「うちの子、1月に亡くなってるんですけど」
彼女が最後に受け取ったLINEは、
停止する6時間前のメッセージだった。
「次会えるの、楽しみにしてるね」
彼女は今でも、
その画面を開くことができない。
既読はついていた。
ずっと、ついていた。
