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【短編小説】AIを武器に「個」で生きる:26歳の逆転劇/第4章.完結

第4章:チェックメイト、そして「自由」へのリセット

決戦の火蓋は、金曜日の役員会議で切って落とされた。

議題は「次期マーケティング戦略」。
だが、会議室の空気は、それとは別のどす黒い熱を帯びていた。

「……本題に入る前に、報告すべき重大なコンプライアンス違反があります」

営業部長が、勝ち誇った顔で立ち上がった。
その手には、僕のSNSアカウントのキャプチャと、僕が個人で契約している広告代理店とのやり取りを盗み見たような資料が握られている。

「営業三課の佐藤。こいつは、会社の機材とAIツールを私物化し、裏で多額の報酬を得ています。いわゆる『副業禁止規定』への重大な違反だ。即刻、懲戒免職に処すべきです」

役員たちがざわつく。常務が苦い顔で僕を見た。

「佐藤君。これは事実かね?」

僕は椅子に深く腰掛けたまま、ゆっくりと視線を上げた。
耳の奥では、**King Gnuの『逆夢』**が、静かに、だが激情を秘めて鳴り響いている。

「……半分は事実です。僕が個人として、社外のプロジェクトに関わっているのは確かです」

「認めたな! この泥棒めが!」

部長の声が会議室に響き渡る。だが、僕の心は驚くほど冷静だった。
昨日、深夜までキンちゃんを肩に乗せて叩き続けた、最後のプロンプトが脳内に展開されている。

「ですが、部長。あなたが言う『会社の機材』と『AIツール』。……それ、僕が自費でライセンスを買い、独自のアルゴリズムを組んだ私物ですよ。むしろ、会社が僕の私的財産を無断で利用していた形になります」

「何を……っ!」

「さらに」

僕は手元のタブレットを操作し、メインモニターを上書きした。
そこには、僕がこの一週間、密かに社内サーバーに組み込んでいた**『AI自動運用エージェント』**の稼働状況が表示されていた。

「僕がこの一ヶ月で自動化した業務フローにより、営業三課の残業代は80%削減され、受注精度は150%向上しました。そして……このシステムは、僕の『個人ライセンス』に紐づいています。僕が会社から消えた瞬間、このシステムは全て停止し、現在の進行中の全プロジェクトは凍結されます」

会議室に、凍りついたような沈黙が流れた。

「部長。あなたが『適当に埋めとけ』と言ったあのズサンな管理体制に、会社を戻したいなら、今すぐ僕をクビにしてください。ただし、その瞬間に発生する数億円の損失の責任は、あなたが取ることになりますが」

部長の顔から、一気に血の気が引いた。

彼は、僕を「替えの効く部品」だと思い込んでいた。だが、気づいた時には、僕は会社という巨大な機械を動かす「心臓(エンジン)」そのものに入れ替わっていたのだ。

「……佐藤君。……いや、佐藤さん。少し、冷静に話し合えないか?」

常務が、すがるような声で言った。
だが、僕はもう、その声に反応することはなかった。
僕は静かに立ち上がり、自分のノートPCを閉じた。

「お世話になりました。……僕の市場価値は、もうこの会社という枠には収まりきらないようです」

呆然とする役員たちと、椅子に崩れ落ちた部長を背に、僕は会議室を出た。
虎ノ門の灰色の空の下、僕は一気に駅へと向かった。

23時。

荷物をまとめ終えたガランとした部屋で、僕はキンちゃんのケージを抱え上げた。

「……お待たせ、キンちゃん。新しいステージに行こうか」

キンちゃんは、僕の指先を甘噛みし、誇らしげに鼻を鳴らした。
スマホを見ると、昨日届いていた広告代理店からのメールに、正式な契約完了の通知。

そして、もう一通。

『佐藤様。先日は素敵な動画をありがとうございました。……次は、私の新しい会社のロゴデザインと、ブランディングもお願いできませんか?』

差出人は、三年前、僕を「清書係」から救おうとしてくれた、あの鈴木先輩だった。
僕は、虎ノ門に向かう電車の定期券を、ゴミ箱に捨てた。
誰かの書いた不条理な脚本(ルール)に従う日々は、もう終わった。
これからは、僕が僕自身の人生をプロンプトする。

King Gnuのラストフレーズが、夜の静寂の中に溶けていく。

26歳、リセット・プロトコル、完了。

僕は、新しい朝へ向けて、一歩を踏み出した。

(完)

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