光を抱く森 #3つのお題に空想のひらめきを
約900字・ショートショート
私は盛大に足を滑らせて膝をついた。
昼すぎから降り出した雨のせいで石畳が濡れていたことを失念していた。
足首に鋭い痛みがはしる。
「痛っ……」
立ち上がろうとしたけれど、力が入らない。
情けなくて下を向いた私の前に、大きな背中が降りてきた。
「ヒカリ、乗れ」
森くんの声は、深い森の静けさみたいに落ち着いていた。
彼は真面目な顔のまま、私の前でひざをついている。
「え、でも、悪いよ。重いし」
「いいから。お前のドジは、もはや放っておけないレベルだ。これ以上、痛がるのを見ていたくない」
森くんは、表情ひとつ変えずに言い切った。
私はためらいながらも、彼の広い背中にそっと体重をあずける。
ふわっと、彼が私を持ち上げた。
私には、少し困った特性があった。
感情が高ぶると、肌がうっすらと光ってしまうのだ。
きらきらと、小さな光が私の周りに舞う。
それは、「私は今、猛烈に恥ずかしがっています」という心の声を、誰にでもわかる言葉で綴っているようなものだった。
沈黙が流れる。言葉にできない時間が、二人の間をゆっくりと満たしていく。
森くんの背中から伝わる熱が、じわじわと私の身体を溶かしていくみたいだった。
私の光は、さらにまぶしさを増していく。
そんな私の体質をとっくに知ってるのに、森くんは何も言わずに黙ってる。
「……もう、森くんのバカ」
「あん?」
「私がこんなに光ってるってことは、それだけ、その……」
「なんだ」
「……察しろよ、大木野郎」
森くんは私を背負い直すと、迷いのない足取りで歩き出した。
彼の大きな優しさが、私の光を丸ごと包み込んでいく。
一歩踏み出すたびに、二人の影は夕暮れの街に長く伸びていく。
「……森くん」
「なんだ」
「重い?」
「……軽いよ。ずっと抱えてても気にならないくらい」
どれだけ恥ずかしいことを言ってるのか、森くんはわかっているのだろうか。
私は彼の首に腕をまわして、背中に顔をうずめた。
そのとき、気がついた。
淡い光に照らされた彼の耳たぶが、真っ赤にうれたリンゴみたいに色づいているのを。
なんだ、森くんも一緒じゃない。
私の放つ光は、今や暗くなり始めた空をぬりつぶすほど、幸せな色に輝いていた。

ヒカリをおんぶする森くんの話にゃん
