回天寿司 #原稿用紙二枚分の文芸賞
約800字・ショートショート
巷で噂の回天寿司の店に入った。
天井のドーム型ディスプレイには魚が群れをなし、キラキラと輝く店内はまるで竜宮城だ。
板前の姿はなく、巨大ホログラムが「本日のおすすめ」を映しだしていた。
店内に響く電子音と小型ドローンの羽音。
反重力装置によりシャリとネタが別々に空を泳ぎながら、まるで水槽の魚のようにクルクルと近づいては離れてを繰り返している。
ここまでくると寿司屋というよりテーマパークだ。
「いらっしゃいませ。ネタをご自由にお選びください」
ホログラムの姫様がウィンクしてきた。
戸惑いながらも私はマグロを注文。
すると、空飛ぶシャリとネタが空中でドッキングした。
ヤバい。かっこいい。
が、問題はその後だった。
「醤油ドローンで、お好みの量をおかけください」
テーブルに置かれた小型ドローンが、黒光りしながらスタンバイしていた。
私はリモコンを握る。
画面には飛行する寿司が映し出され、まるで戦闘機ゲームだ。
ボタンを押せば醤油を噴射する仕組みらしい。
これが死ぬほど難しかった。
寿司はくるくると舞い、私の射撃を避ける。
まるで戦場を駆けるエースパイロットだ。
「当たれっ!」
放った醤油は大きくそれて、隣の席の着物美女の帯に着弾し、真新しい水玉模様を生み出した。
「ぎゃああ!」
よく見ると着物は既に醤油迷彩状態。
何度も流れ弾に当たったらしい。
「またですか」
彼女は深いため息をついた。
どうして彼女は着物で来店してしまったのか。
店員が駆けつけ、紙を一枚差し出してきた。
そこには「醤油ドローンは高難易度につき、プラス五百円で自動操縦モード可」と書かれている。
課金制かよ!
私は迷わず依頼した。
すると即座にドローンが寿司を背後から追尾しロックオン。
醤油を発射!
直撃を受けたマグロが醤油に染まり、そのまま私の口へ墜落してきた。
ズドン! 歯に直撃。
涙目で咀嚼しながら私は誓った。
こんな店、二度と来るもんか。
……いや、来週もまた来てしまう気がする。

こちらの企画に参加させていただきました。よろしくお願いいたします。
#原稿用紙二枚分の文芸賞
