見出し画像

魔法が遅れて届く日 #3つのお題に空想のひらめきを

約900字・ショートショート


僕の心には不具合がある。

嬉しいとか、悲しいとか。そういう心の動きが僕の胸に届くまでに、きまって三日の時間がかかるのだ。

祖父が亡くなったときも、僕は葬儀の間ずっと無表情を通した。

親戚たちのひそひそ声が痛かったけれど、僕の心は凪いだままで、涙のひとしずくも出てこなかった。

三日後の夜、一人きりの台所でカップラーメンをすすっているときに、突然それはやってきた。

急に視界が歪んで、熱い涙が、ぼたぼたと麺の中に落ちた。

ああ、僕は、人と同じ瞬間を生きることができないんだ。

そんな欠陥品の僕を、まるごと「好きだ」と言ってくれたのが、クラスで一番、光が似合う佐々木さんだった。

「君の反応が遅いのは、きっと、感情を丁寧に熟成させてるからだね。弱火でコトコト煮込まれるシチューみたいにさ」

彼女はそう言って、僕の不器用な沈黙を笑って待ってくれた。

夏祭り。

紺色の浴衣を、それはもう見事に着こなした彼女が現れたとき。

僕は言葉を失った。

細い指先の動きや、恥ずかしそうに揺れる眉、そのすべてを目に焼き付けたのに、「きれいだね」の一言さえ出てこない。

三日後。一人で部屋にいるとき、心臓が爆発しそうに熱くなった。

そんなある日の帰り道。

佐々木さんは、少しだけ寂しそうに口角を上げた。

「私、遠くに引っ越すの。だから……さよなら」 

僕は黙っていた。

何も感じなかったからだ。

寂しいのか、つらいのか。それさえも分からないまま、彼女は学校に来なくなった。

そして三日後。

校門を出た後、僕はがっくりと膝をついた。

内臓をかき乱されるような絶望と、愛しさが、遅れて押し寄せてきた。

「好きだ! さよならなんて、絶対嫌だ……!」

でも、彼女はもう、いない。

……はずだった。

「三日、経ったかな」

凛とした声がして、僕は顔を上げた。

電柱の陰から彼女が現れた。

「そろそろ君が泣く頃だと思って。……私の勝ちだね」

彼女は、僕の「三日間の空白」を最初から計算に入れて、引っ越す三日前に僕にサヨナラを告げたのだ。

僕は涙を拭わず、彼女に向かって力強く一歩を踏み出した。

「今の言葉は、三日後の僕じゃない。今この瞬間の僕が、魔法を追い越して言ってるんだ」

彼女の手を引いて、ぎゅっと抱きしめる。

「大好きだよ」


ひょっこりにゃん


いいなと思ったら応援しよう!