海のポスト #3つのお題に空想のひらめきを
約5000字・2人用台本
人:あ~、砂浜にペットボトルがいっぱいだねぇ。昨日は海が荒れてたからなぁ。毎日、毎日、いったいどこから流れてくるんだろうねぇ。
人:んじゃ、今日も拾っていきますかね。(拾って)よい、(ゴミ袋へ)よい。よい、よい。よい、よい。
人:あ、ウイスキーのボトルだ。こんなの割れたら危ないよ。これは資源ゴミじゃなくて、燃えないゴミね。
亀:ちょっと待ったー!
人:ん? なに今の声? (キョロキョロを周りを見て)ん? ん? 誰もいないか。こんな朝っぱらからこの砂浜に来る人なんているわけないよな。気のせいか……。
亀:そこの人ー!
人:ええ? 海のほうから聴こえた?
亀:こっちこっち!
人:ウミガメだ。ウミガメが喋ってる。
亀:やっと気づいてくれた。よかったー。
人:こんなことってあるんだねぇ。
亀:喋るウミガメに出会ったの、初めて?
人:初めてだよ。ウミガメって人の言葉を喋れるのかい?
亀:長生きだからね。そんなウミガメは何匹もいるよ。舞浜にいる奴はよく人間と喋ってるそうだけど知らないかな。
人:全く知らない。それに、なんとなくだけど、その話題には踏み込んじゃいけない気がする。
亀:まあそんなことはどうだっていいんだ。あんたがさっき袋に入れていたビンがあっただろ?
人:ああ。ウイスキーのボトル?
亀:そのビンをもう一回よく見て。
人:ああ、ちょっと待ってね。(袋からビンを取り出し)これのことかい?
亀:それそれ。中に何か入ってるだろ。
人:あ、ホントだ。紙が入ってる。
亀:そうだよ。気づいてなかったみたいだから、つい声かけちゃったよ。
人:教えてくれてありがとうウミガメさん。全然気がつかなかった。(紙を取り出して)…よっと。あ、取れたよ。
亀:ああ、よかった。
人:ビンは不燃物で、紙はこっちの燃やせるゴミの袋だよね。ポイっと。
亀:ちがーう!
人:え? なにが?
亀:ゴミを分別するために声をかけたんじゃない!
人:なんでウミガメさんは怒ってるのかな。
亀:それは大事な手紙なんだよ!
人:ウミガメさんは知らないのかぁ。手紙っていうのはね、郵便ポストに入れるんだよ。海に流したってことは、それは手紙じゃなくてゴミなんだ。
亀:ゴミじゃなくてボトルメールだよ。そういうの聞いたことないの?
人:なんだいそれは?
亀:けっこう有名だよ。戦争中に兵士が奥さんに宛てた手紙をビンに入れて海に流したら、85年後に発見されて、奥さんは亡くなってたから、その娘に手紙が届けられたとか。
人:気の長い話だね。それって結局届かなかったってことなんじゃないのかな?
亀:37年前に海流調査のために750本のビンを流したら、今のところ52本が発見されてるとか。
人:それほとんど見つかってないってことだよね。そんなバカなことをしたのはどこの国?
亀:日本。
人:日本だったのか。世界の恥だね。
亀:だからつまり、そういう瓶の中に手紙を入れて海に流すって話がいろいろあるんだよ。
人:で、これがそのボトルメールってやつなのかい?
亀:そう。中を読んでみて。
人:断る。
亀:えっ、なんで!?
人:どんな事情があるのかは知らないけど、海にゴミを捨てていい理由にはならないだろう。だからこれは処分する。だいたいなんだい。750本のビンを海に流したって。そのビンがどれほど海の生物に悪影響を与えるか考えもしなかったのか。
亀:それをウミガメの私に言われても困るんだけど。
人:そうだったね。あー、人類の代表として、日本の代表として謝罪するよ。ごめんなさい。
亀:私は海の代表じゃないから謝られても困っちゃうんだけど。
人:同じ人間として恥ずかしいよ。ウミガメさんにはいくら頭を下げても許してもらえないと思うけど、本当にごめんね。
亀:ああ、うん。
人:じゃあ、まあ、そういうことで。
亀:待って、待って。反省してくれてるなら、お願いだから手紙を読んでよ。
人:だから、さっきも言っただろう。どんな事情があろうと……。
亀:ポストに手紙を入れられない事情があったんだ。海に流すしかもう方法がなかった。頼む。お願いだ。その手紙を読んでくれ。そいつの命がけのメッセージだ。その声を聞いてやってくれ。
人:命がけのメッセージ?
亀:そう。
人:それはどういうことだい?
亀:ここから数十キロ離れたところにある小さな島に、数週間前に一人の男が漂流したんだ。船を嵐でなくしてしまったらしい。
人:災難だったね。
亀:その島はとても人間が住める環境じゃない。助けを呼ぼうにも手段がない。日に日に衰えていく人間を私は見ているしかなかった。
人:無人島か。それで?
亀:その男が昨日、最後の願いを託すように手紙を書いて、それをビンに入れて海に流した。私にはそれがボトルメールだとわかった。だから、人がいる島の海岸までそのビンを口に咥えて運んでやることにしたんだ。
人:つまりこのビンはウミガメさんがここに運んだってことかい?
亀:そう。
人:つまり、ウミガメさんが海のポストになったってわけだ。
亀:この砂浜に置いておけば、すぐに人が見つけてくれると思った。予想通り、あんたがビンを見つけてくれた。これで一安心と思ったんだよ。
人:ふざけるな。なんでこの砂浜に捨てるんだい。私の仕事を増やすんじゃないよ。
亀:あああ、ビンを運ぶ場所を間違えた。とんでもない人が拾っちゃった。
人:事情はわかった。遭難したのは可哀想だと思うがね。でも、それはそれ。運が悪かったと思って諦めてもらうしかないよ。
亀:薄情だな。同じ人間だろ。仲間だろ。助けてやれよ。
人:私はその人のことたぶん知らないから気にしないよ。
亀:頼むよ。あんたが手紙を捨ててしまったら、それをここまで届けた私の立場はどうなる?
人:そんなの知ったこっちゃないね。あーあ。ウミガメさんがビンをここに持ってこなかったら、こんなことにはならなかったのに。遭難した人が助からなかったらウミガメさんの責任だねぇ。
亀:そんな……。
人:一つ質問があるんだけど、いいかい?
亀:なに?
人:ウミガメさんは、なんでその人を助けようと思ったんだい?
亀:私も最初はなんとなく見てただけだったんだ。でもだんだんかわいそうになってきて、助けてやりたいって思っちゃったんだよ。仕方ないだろ。
人:ほほう。ウミガメさんは優しいんだね。
亀:まあな。
人:その背中に乗せて運ぶわけにはいかなかったのかい?
亀:無理無理。そんなことして泳げるわけないだろ。
人:そりゃそうか。でもそんなウミガメさんに伝えたいことがあるんだ。
亀:なんだよ?
人:これを聞いたら、ウミガメさんも考えを改めるんじゃないかな。
亀:だからなんだよ?
人:ウミガメさんは海洋プラスチック問題を知ってるかい?
亀:海洋……プラスチック問題?
人:人間が川や海に流したプラスチックが海洋生物の生態系に悪影響を及ぼしているんだ。世界の海には1億5千万トンものプラスチックゴミが存在し、毎年、少なくとも8百万トン以上のプラスチックゴミが海に流されているそうだよ。
亀:プラスチックゴミ……。そういえばウミガメの仲間から聞いたことがある。数年前、竜宮城が人間の出したゴミに埋もれてしまったって。それがプラスチックゴミってやつなのか?
人:そう、その通りだ。竜宮城が埋もれちゃったのは初耳だけどね。今、この瞬間にも大量のゴミが海に流されているんだ。私は海が大好きだからね。海を汚すやつは絶対に許せない。
亀:あんたは人間よりも海が大切なのか?
人:当たり前だ。だからビンを海に流すような奴がどこで野垂れ死んでもかまわないね。
亀:わかったよ。あんたは非道い奴かと思ったがそうでもないらしいな。
人:わかってくれたかい。
亀:海を汚す人間は私も嫌いだ。だが、それはそれとして、私は遭難している人間を助けてやりたいんだ。
人:(ため息)やれやれ。まだそんな甘いことを言ってるのか。
亀:年間8百万トンの中のたった一つのビンじゃないか。許してやってくれよ。
人:バカだねぇ。その一人ひとりの甘えが大量のゴミを生み出していることにどうして気がつかない。一人ひとりの意識を変えなければ、海を守ることなんて出来やしないんだ。
亀:だからそれをウミガメに力説されても困るんだけどな。
人:ウミガメさん。君自身が人間に殺されかけているとしたら、それでも人間を許せるかい?
亀:どういうこと?
人:ウミガメさんは海藻やクラゲを食べるだろ。
亀:ああ。
人:海に浮かぶビニール袋を海藻やクラゲと間違えて食べ続けたウミガメは、プラスチックが消化されずに消化器官の中にたまって、臓器を傷つけ餌を食べることができず、痩せ衰えて餓死することがあるそうだよ。
亀:そういえば、最近、お腹が減らないと思ってたんだ。まさか、私の腹の中のにもプラスチックが詰まっているというのか?
人:おそらくね。
亀:なんてことだ。私は死んでしまうのか?
人:これからビニール袋を食べることをやめれば元気になるかもしれない。それでも1か月以上は腹の中に溜まったビニール袋を排泄し続けることになるだろうが。
亀:……私は人間に殺されかけていたのか……許せない……。
人:そうだろう、そうだろう。そんな人間を君は助けようと言うのかい?
亀:……確かにあんたの言うとおりだ。私が人間を助ける理由はなかったよ。
人:わかってくれてよかった。それじゃ、このボトルメールはゴミってことで私が処分するよ。それでいいだろ。
亀:でもちょっと待って。
人:まだ何かあるのかい?
亀:何が書かれてるか、気にならない?
人:え?
亀:無人島に遭難して数週間も助けが来なくて、水も食糧も底をついて絶望した人が書いた最後のメッセージだよ。何が書いてあるか、気にならない?
人:別にどうだっていいよ。
亀:なんでだよ、気になるだろうよ! その手紙はそいつの命の声だ。魂の叫びだ。それがどうしてわからないんだよ!
人:うーん。
亀:わかった。こうしよう。そこに何が書かれていても、私もあんたも何もしない。ただ読むだけだ。それで終わり。それならいいだろう。
人:ただ読むだけ?
亀:そうだ。
人:絶対に何もしないって約束するかい?
亀:約束する。
人:じゃあ私も、この手紙に何が書いてあっても何もしないと約束しよう。それでいいかい?
亀:それでいい。私は人の言葉を喋れるが文字は読めない。頼む。何が書いてあるか教えてくれ。
人:わかった。えーと、なになに……。
亀:ごくり。
人:(読んで)これは……!
亀:何が書いてあったんだ?
人:数週間前から行方不明になっていた兄が私に宛てた手紙だ。私に助けを求めてる。
亀:ミラクル!
人:こんなことってあるんだねぇ。
亀:なんという偶然。この砂浜にビンを届けたのは正解だった。
人:いやぁ、数週間前に遭難した人って言われた時に一瞬、兄の顔が頭をよぎったんだけどねぇ。まさかそんなことあるわけないって思っちゃったんだよねぇ。
亀:可能性を否定するなよ。そこでピンと来てたら話は早かっただろ。さあ、一刻を争う。早く助けに行こう!
人:何を言ってるんだい?
亀:は?
人:この手紙を読んでも僕もウミガメさんも何もしないって約束したばかりじゃないか。
亀:それは……そうだけど、あんたのお兄さんなんだろ?
人:それはそれ。これはこれ。ウミガメさんもさっき海にゴミを流す人間は許せないって言っていただろう。
亀:……そうだね。
人:だろ?
亀:じゃあ……いっか。
人:そうだね。兄には悪いけど、これも海を守るためだ。仕方ない、仕方ない。あははは。
亀:お兄さんと何かあったの?
人:たいしたことはないよ。兄弟には色々あるんだ。
亀:詳しく聞かないほうがいいみたいだね。それじゃあ、私は帰るよ。
人:ああ。もうビニール袋を食べないように気をつけるんだよ。
亀:わかった。気をつけるよ、ありがとう。
人:元気でなー。
人:さてと。それじゃあゴミ拾いを再開だ。(拾って)よい、(ゴミ袋へ)よい。よい、よい。よい、よい。
人:ん? 今、兄が私を呼ぶ声が微かに聴こえた気がしたけど……気のせいか。

【あとがき】
昔に書いた台本がお題にぴったりだったので蔵出ししました。
以前にお知り合いの演者さんに演じて頂いた時の切り抜き。
楽しい劇になってよかったです。
