見出し画像

トナカイ貝 #毎週ショートショートnote

約400字・ショートショート


シャン、シャン、シャン。

耳に当てると、波の音の代わりに、遠い鈴の音が聞こえてくる。

トナカイ貝は、海中のプランクトンではなく、冬の空気中に漂う音を食べて育つ不思議な貝だ。

特にクリスマスの時期になると、彼らの殻は美しい螺旋を描きながら、街の賑わいや人々の笑い声を層のように取り込んでいく。

​祖母が亡くなって、初めての冬が来た。

僕は遺品整理で見つけた、古びたトナカイ貝をそっと耳に当ててみる。

ザザッ……チリリン。

ノイズの向こうから、懐かしい音が聞こえてきた。

『ほら、メリークリスマスだよ』

若かりし頃の祖父の声。そして、それに重なるようにして響く、鈴のような高い笑い声。

それは、まだ元気だった頃の祖母の笑い声だった。

貝殻の奥底に閉じ込められた、数十年前の聖夜。

僕は冷たい貝殻を頬に押し当てたまま、窓の外の雪をいつまでも眺めていた。

僕の目からこぼれた温かい雫もまた、この貝に吸い込まれて、いつか誰かの耳元で音を奏でるのだろうか。



懐かしい声が聴こえるにゃん


いいなと思ったら応援しよう!