ネタがない
約700字・ショートショート
街のはずれに、風に吹かれた紙くずがぐるぐると渦巻く場所がある。
そこは「物語のゴミ捨て場」と呼ばれていた。
世界中の作家たちが「ボツ」にして投げ捨てたアイデアが、山のように積み上がっている場所だ。
僕はそこで、誰かが使い古したネタを拾い集めるのが日課だった。
「体が入れ替わる話」や、「最後に大逆転する話」。
どれもこれも、いろんな人の手に触れられて、手垢でベタベタと汚れている。どこかで読んだことのあるような、古くさいものばかりだ。

「お兄さん、いいネタがあるよ」
ボロボロのコートを着たおじいさんが、暗がりのなかから声をかけてきた。
彼が広げた手のひらには、見たこともないほどキラキラと輝く「種」がのっていた。
「これは、『世界にたった一つしかない、自分だけのアイデア』の種だよ」
僕は震える手でお金を差し出し、その種を買い取った。
急いで家に帰り、机に向かう。
真っ白な原稿用紙の真ん中に、その種をそっと置いた。
「これで、僕だけのすごい物語が書けるぞ!」
ドキドキしながら見守っていると、種から魔法のように文字が溢れ出し、原稿を埋めていく。

ところが。
そこに現れたのは、ありふれた教訓めいたお話だった。
誰もが知っているような、退屈で、ごく普通の物語。
僕はがっくりと肩を落とした。
結局、僕たちはゼロから何かを作り出しているわけじゃないんだ。
誰かが捨てたゴミを拾ってきて、少しだけ綺麗に磨いて、「これは僕が見つけた宝物だ」と思い込んでいるだけなんだ。
ゴミ捨て場のカラスが「アホかぁ、アホかぁ」と笑うように鳴いていた。

