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未完全人間 #アマノ文筆クラブ

約800字・ショートショート


空にふわりと浮かぶ街。

そこは、真っ白な美しい翼を持ち、永遠に生きる「完璧な人間」が住む場所だ。

病気も、老いも、死ぬことさえも、ここでは遠い昔の「おとぎ話」でしかない。

そんな透き通った世界の中で、僕だけが「未完全人間」と呼ばれている。

朝、お隣さんがバサリと大きな翼を広げ、水色の空へと溶けこんでいく。

僕はそれをまぶしそうに見上げながら、一歩ずつ、トボトボと階段を下りていく。

一歩ふみ出すたびに、膝に重さを感じる。

でも、この重さこそが、僕がここで生きている証拠だ。

街の人たちは、僕のことを「壊れやすい宝物」みたいに扱う。

僕が少し鼻を赤くして、小さく「くしゅん」とくしゃみをしただけで、みんな真っ青な顔をして集まってくる。

「大変だ。 命の火が消えかかっているぞ!」

みんな大さわぎで、僕が死なないようにとお祈りを始める。

料理中に指を切って、赤い血が流れたときもそうだった。

彼らはその血を聖水と呼んで、まるで奇跡でも見たみたいに、うっとりと目をうるませる。

永遠に生きる彼らには、こんなに熱くて、真っ赤な色は流れていないから。

不自由な体だ。いつかは病気になるし、ケガもする。そしていつかは、おじいさんになって死んでしまう。

けれど、一生が終わらない彼らにとって、僕の「終わりがある命」は、どんな宝石よりもキラキラして、切ないものに見えるらしい。

スーパーで買ったリンゴを一口かじった。

「シャクッ」という音と一緒に、口の中に広がったのは、驚くほど強い甘みと、少しの酸っぱさ。

「……おいしい」

独り言が、静かな部屋に消えていく。

一生が終わらない彼らには、このリンゴの本当の美味しさはわからないだろう。

今、この瞬間にしか味わえない、一瞬の輝きだから。

僕は、いつか止まってしまう心臓の音を、「トクトク」というリズムのように感じながら微笑んだ。

終わりがあるから、毎日はこんなに眩しいんだ。

いつか来るサヨナラの日のために。

僕は限りある毎日を、誰よりも欲張って、最高に楽しんでやろうと思う。


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