好き化粧 #毎週ショートショートnote
約400字・ショートショート
化粧とは、私たち狐の化かし合いよりずっと業が深い。
鏡の中の偽物の女を見て、私は溜息を吐いた。
銀狐の私が街に降りて三月。術で編んだ垂れ目の女の顔に、さらに粉や筆で別の自分を塗り重ねる日々だ。
朝、背後から彼が私を抱きしめる。
「今日も綺麗だね」
その体温に、パジャマの中で尾が暴れそうになる。
ある夜、彼が寝静まった後に術を解いてみた。
ふと鏡を見ると、銀の毛並みに、人間だった頃のアイシャドウが青くキラキラと残っていた。
化けの皮の残骸。
それは醜いはずなのに、月の光の下で宝石のように見えた。
彼に本当の私を見てほしい。
唐突な衝動が胸を焼いた。
翌朝、私は化けるのをやめた。
ただ一つ、彼の好きな香りの紅を鼻先にさし、四つ足のまま枕元に座った。
目を覚ました彼は、驚く風もなく、優しく私の鼻先に触れた。
「おはよう。今日は一段とワイルドなメイクだね」
その声は、いつもの嘘の私へのそれよりも、ずっと優しく響いた。

