入学式の養殖 #毎週ショートショートnote
約400字・ショートショート
薄暗い裏庭の水槽で、今年の「入学式」が跳ねている。
秋に種をまき、冬の沈黙で育て上げた純国産の式典だ。
僕は水槽に、乾燥させた「緊張」を振りまく。
チリチリと溶け込み、ピリッとした空気が醸成されていく。
水温を上げると、新入生たちの期待が泡となって浮上した。この発酵を怠ると、本番で校長の話が湿気てしまう。
そして当日。
バルブを開くと、完成された「入学式」がパイプを通って体育館へ流れ込んだ。
ザアアッ。
銀色に光る「おめでとう」の活字や、脈打つ桜の花びらが瑞々しい。
扉が開くと同時に、完璧に養殖された感動と緊張が、新入生たちを飲み込む。
壇上には、一寸の狂いもない計算通りの門出があった。
誰もが台本通りの涙を浮かべ、予定通りの高鳴りを胸に刻む。
だが、放流を終えた水槽の底に、パイプを通るのを拒否した「残りカス」がいた。
校長自慢の、とっておきの爆笑スピーチ(自称)だ。
誰にも届かなかったユーモアが、虚しく水面を叩いている。
「やれやれ」
僕は無表情に、その「不発の笑い」を網ですくい上げ、生ゴミのバケツへと放り込んだ。

