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紅の羽を持つ時鳥 #3つのお題に空想のひらめきを

約1000字・ショートショート


​消してしまいたい過去は、ふとした瞬間に灼熱の痛みを伴って蘇る。

僕にとってそれは、昨年の新人歓迎会での大失敗だった。

カラオケの三次会で、泥酔して佐藤部長に無理矢理キスをしてしまった。佐藤部長は仕事に厳しく、そして親ほど年の離れた女性上司だ。

その生々しくも温かい感触を思い出すたびに、ナイフで心臓を抉られるような痛みとともに、胃液がキリキリと食道を逆流してくる。

そんなある日の夕暮れ。部屋の窓辺に一羽のホトトギスが舞い降りた。全身がまるで溶岩の熱を宿したような鮮烈な紅色に染まっていた。

​「ホォ、ホォ……」

そう言えば聞いたことがある。

紅の羽を持つホトトギスは過去の恥を全ての人の記憶から消し去る、とかなんとか。

​僕は藁にもすがる思いで、あの忌まわしい記憶が消えることをホトトギスに願った。

​すると、胸の奥深くにこびりついていた黒い塊が、氷が溶けるように冷たいモヤとなってスルスルと僕の頭の中から抜き出された気がした。

全身から力が抜け、静かで深い安堵感が広がった。

​満足したようにホトトギスは身震いをして、鮮血のような美しい紅色の羽を一枚、ハラリと落とした。

その紅色の羽は手のひらに乗せると微かに温かく、まるで僕の赤っ恥が凝縮して形を変えたようにも見えた。

ホトトギスが飛び去った後、僕はその羽をお守りとしてスーツのポケットに入れた。

​翌日、出社すると、同僚たちが僕を見るなり、肩を震わせてクスクスと笑い始めた。

おかしい。

僕の恥は消えたはずなのに。

​「お前、昨日の夜、佐藤部長に『お母さん、今日のご飯いらない』ってメールしたらしいな」

同僚の言葉に、全身の血が引いた。

身に覚えがない。

スマホを開くと、しっかりと自分が送ったメッセージが履歴に残っていた。

慌ててポケットを探ると、例の紅色の羽が出てきた。

同僚がそれに目を留めた。

「あ、その羽……」

「うん。昨日、紅のホトトギスに僕の失敗を消してくれって頼んだんだ」

やれやれと同僚が呆れたように、憐れむような目で笑った。

「何を願ったのか知らないけど、それでこんなことになってるんだな」

「どういうこと?」

「知らないのか。紅のホトトギスは恥の托卵をするんだ。お前の恥を消す代わりに、違うの恥を育てさせられるんだよ」

そんな話だったの?

僕はガックリとデスクに突っ伏した。

その日の午後の会議。

佐藤部長から僕の仕事のミスを指摘された。

頭が真っ白になり、恐怖と焦燥で喉の奥が張り裂けそうになった。

​「 申し訳ありません、お母さん!」

思わず​口から出てしまった『お母さん』という言葉に佐藤部長の顔がピクピクと引き攣る。

僕に託された恥の卵は、まさに今、僕の口という巣から見事に羽化し、そして大空に飛びたっていった。



しごできサラリーマンにゃん


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