SBTi「Net-Zero Standard V2.0」がカーボンクレジット需要に与える影響— 森林クレジットは追い風となるのか?
SBTi(Science Based Targets initiative)は2025年11月、Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 の第二ドラフトを公開しました。Version 1.x からの初めてのメジャーアップデートとなる今回の改訂は、特にカーボンクレジットの扱いに関するルールが明確化・強化された点で、多くの企業にとって重要な意味を持ちます。
本記事では、改訂案が森林由来クレジットを含むカーボンクレジット市場にどのような影響を与えるのかを整理します。
1. ドラフト版で明確化した「カーボンクレジット調達の要件」
3月に第一ドラフト、11月に第二ドラフトが公開され、第二ドラフトではカーボンクレジットに関する記述がより具体的かつ厳密に整理されました。
その結果、
これまで「どのクレジットをどの程度使えば良いか」が曖昧で意思決定が難しかった企業にとって、
将来の調達計画を立てやすい内容になった
と言えます。
2. カーボンクレジットの3つの使い方
SBTiが示すクレジット用途は大きく以下の3種類に整理されます。
(1)残余排出の「除去(removals)」
ネットゼロ達成時点でも削減できない残余排出を、除去クレジットで相殺するものです。
第二ドラフトのポイントは次の通り:
高耐久性(durability)の要件が初めて定量化
2035年・2040年・2045年・2050年に向け、
「一定割合は高耐久な除去でなければならない」という最低ラインが示されました(案ベース)。森林クレジットは高耐久に該当しない
高耐久=鉱物化、CCSなど“1,000年スケールで大気に戻らない”技術が想定されるため。

とはいえ、森林関連の事業者やクレジット購入企業にとっては追い風となるポイントがあります。
▶ 2050年でも“高耐久は半分未満でよい”
多くの企業がネットゼロ目標年としている2050年においても、除去の過半を森林クレジットのような非高耐久クレジットで賄える方向でドラフトが示されています。
つまり、
森林クレジットが排除されることはない
2050年に向けても需要が持続する可能性が高い
という安心材料が示されたと言えます。
▶ 2035年から「除去の段階的義務化」が始まる
まだ数値は確定していないものの、
2035年から排出量の1%程度を除去で対応することが義務化される方向
が示されています。
このため、
「2050年にまとめて取り組めばよい」という考え方は通用せず、
2030年代前半から除去投資を前倒しで検討する必要がある
という明確なシグナルになっています。
(2)バリューチェーン外での貢献(Beyond Value Chain Mitigation → Ongoing Emissions Responsibility)
従来は「バリューチェーン外での緩和(BVCM)」と呼ばれていた領域が、第二ドラフトではより強い概念に再定義されています。
▶ 新名称:Ongoing Emissions Responsibility(継続的な排出への責任)
概念はほぼ同じですが、「responsibility(責任)」という言葉に変わったことで制度的な強度が増しています。
▶ 1%の排出量に相当する貢献を求める方向
排出量の1%分を貢献として負担すべき
それを実施しているか公表し、不実施の場合は理由説明が必要
これまで“完全に任意”だったBVCMに対し、
半強制的な要素が加わったのが大きな変化です。
森林クレジットはこの領域で利用されることが多いため、需要の底上げが期待されます。
(3)スコープ3への活用(バリューチェーン内)
改訂案にも示されていますが、森林クレジットの利用余地は限定的であり、今回は詳細説明を割愛します。
3. 森林クレジットへの影響:総じて「需要増」の方向
改訂案を総括すると、森林クレジットにとっては以下のようなプラス材料が揃っています。
2050年でも高耐久でない除去が半分以上OK
2035年から早期に除去投資を求める方向
バリューチェーン外での貢献が半義務化され、需要が安定的に増加
これにより、
森林クレジットへの企業需要は今後確実に高まる
という見方が強まります。
まとめ
SBTi ネットゼロ・スタンダード Version 2(第二ドラフト)は、カーボンクレジットの扱いを明確化し、多くの企業にとって調達計画を立てやすくする方向へ進みました。
特に森林クレジットに関しては、
長期的にも需要が維持される見通し
2030年代からの前倒し投資が必要
BVCM領域の強化により市場が拡大
と、ポジティブな影響が大きい内容となっています。
