短編小説『死刑囚と眠る子どもたち』

死刑囚と眠る子どもたち
祈ることが、死刑囚に与えられた最後の仕事だった。
房の鉄扉が開くたび、俺は看守に連れられて白い廊下を歩く。向かう先は刑務所の奥にある小さな病棟。そこには、不治の病に侵された子どもたちが眠っている。
俺の前に、黒いマイクと数枚の紙が置かれる。紙には、子どもたちの名前が一人ずつ書かれている。読み上げながら、静かに祈る──それが仕事だ。
科学が証明したわけじゃない。けれど、この国では昔から「祈りの声は細胞を癒やす」と信じられてきた。とくに、死を目前にした者の祈りは、奇妙な周波数を帯びるらしい。だから死刑囚の声が選ばれる。
初めのうちは淡々と読み上げた。俺にできることなんて、せいぜいこの退屈な儀式を終わらせることぐらいだと思っていた。
だが、自分がどれほど取り返しのつかないことをしたか、その重さは声の奥底に沈んでいた。それは、俺が消そうとしても消えない影のように、祈りの一音一音に滲み出ていた。
ある日、看守がぽつりとつぶやいた。
「昨日祈った子が、少し笑ったらしいぞ」
胸の奥が、かすかに揺れた。それからは、紙に書かれた名前を一つひとつ噛みしめるように読んだ。
深く息を吸い、吐くたびに声が静かな病棟をゆっくりと満たしていく。遠くのモニターの電子音が、祈りの隙間に淡く混ざる。
看守の靴音が廊下に遠ざかり、外界の気配が閉ざされていく。
まるで、遠くの海に向かって瓶を投げるみたいに。
刑の執行はあと三日だと告げられた夜。病棟のベッドで眠る少女の名を読み上げたとき、俺はふと思った。
──俺も、祈られたい。
最期の日、紙をめくる指先が止まる。
わずかな沈黙。紙の端が擦れる音がやけに大きく響く。
視線を感じて顔を上げると、看守がこちらを見ていた。
脳裏に、先週祈った少年の穏やかな寝顔が浮かぶ。
「……最後に、この名前を加えさせてほしい」
短く息を呑み、静かに吐き出してから、俺は自分の名前を告げた。
もしどこかで、俺の声を覚えている子がいてくれたなら──死の間際、ほんの少しだけ、俺の罪を和らげてくれるかもしれない。
……今は、それでよかった。
あとがき
シロクマ文芸部のお題「祈ること」に参加させていただきました。
「祈ること」か……なんか難しそうだな、と思ったのですが、意外とアイデアが湧いてすんなり書けました。
途中で「グリーンマイル」的な奇跡を描こうかとも考えましたが、やっぱり死刑囚である以上、簡単に救われてはいけない気もして──結果として、この結末に落ち着きました。
今は、それでよかったのかなと思っています。
読んで「まあまあよかった」と思ってくれた方は、スキ・フォロー・コメントで祈りを届けてください。
ついでに、連載中の『配達員ろること2号』も見ていただけると、作者の心のバランスも保たれます。
Xではフードデリバリーの話や小説、AIイラストをゆるくポストしてますので、そちらもどうぞ。
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※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。
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