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ショートショート『思い出相続税』

親の顔も知らずに育った俺の部屋に、ある日、弁護士が来た。

「お父様が亡くなりました」

知らない名前だった。だが続く肩書きに、思わず眉が動く。

世界的な学者。受賞歴、論文、テレビ出演――ニュースで見たことがある人物だった。

「遺産の相続についてですが」

金かと思ったが、違った。

「“思い出”です」

説明は簡単だった。父の記憶を相続できる。ただし価値に応じて課税される。

「研究成果に関わる記憶は非常に高額です。人類にとっての価値が高いため」

へえ、としか思わなかった。

「じゃあ、いらないっすね」

弁護士が一瞬だけ目を細める。

「……よろしいのですか? お父様の人生そのものです」

「関係ないんで。会ったこともないし」

沈黙のあと、書類が閉じられる。

「承知しました。では全て国庫へ」

帰り際、弁護士がぽつりと言った。

「ちなみに、最も高額だったのは研究ではありません」

足が止まる。

「あなたを初めて抱き上げた日の記憶です」

……。

ドアが閉まったあと、俺はスマホを取り出した。

データバンクのアプリを起動し、検索窓に打つ。

『抱き上げ 記憶 買取』

表示された金額を見て、俺は小さく舌打ちした。

「税金払ってもまだ黒字じゃねえか……」


あとがき

毎週ショートショートnoteのお題「思い出相続税」に参加させていただきました。

思い出に税金がかかる――最初は家族の記憶を相続する、ちょっと感動寄りの話を考えていました。ただ、それだと綺麗にまとまりすぎる気がして、少しひねることにしました。

もし相続する思い出が、顔も知らない親のものだったら?
しかもその親が世界的な学者で、記憶に価値がついていたら?

昔よくあった「感動の親子再会」みたいな話を見ても、自分はあまりピンと来なくて、「生みの親より育ての親だろ」と思うタイプでした。だからこそ、この主人公も同じ温度感で動かしています。

ただし、金の話になった瞬間だけは別。
そこだけ妙に現実的で打算的。

結果、「感動」を提示されても心は動かないのに、「価値」を提示された瞬間にだけ反応する、ちょっと嫌な人間が出来上がりました。

でもまあ、もし本当に遺産がもらえるなら――
話は別かもしれませんね。


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※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。
また、一部の描写は実在するXユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、
特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。

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