短編小説『モナリザの微笑み、芸人の苦笑い』

モナリザの微笑み、芸人の苦笑い
楽屋の鏡の前で、イチノセが自分の顔をじっと見ていた。
「なあハヤシ、俺の顔って、笑ってるようで笑ってへんらしいねん」
「また面倒くさい診断受けたんか」
「ちゃうねん。さっきマネージャーに“モナリザみたいやな”って言われてん」
「褒め言葉やろ、それ」
「でもな、“スベってる顔に見える”って続いた」
「悪口やないか!」
イチノセは笑いながらも、どこか真剣な目をしていた。
「俺らの漫才、芸術にならんかな」
「はい出た。“ポエム漫才”の時間や」
「ちゃうねん。笑いも絵も、描く瞬間は真剣やん」
「つまり、スベってる瞬間も芸術と」
「せや。“動く絵画”や」
「動きすぎて転けとるやろ」
ブザーが鳴る。出番の合図だった。
イチノセは深呼吸をして、鏡に向かって一言つぶやく。
「よし、今日も展示してくるわ」
***
ライトが白く降り注ぎ、舞台の床が一瞬、額縁みたいに輝いた。
観客のざわめきが波のように揺れ、俺たちはマイクの前に立った。
「どうもー、《ネジ曲がり》です!」
俺の声がホールを震わせ、拍手が広がる。
イチノセが一歩前に出る。
「俺、最近“芸術の秋”やから、アートに目覚めてん」
「お前、急にどうした」
「スベっても“前衛的やな”って言われたい」
「芸術の名を借りた逃げやないか!」
笑いが波のように押し寄せ、空気が一段跳ねた。
イチノセは得意げに胸を張りながら、続ける。
「この前、美術館行ったらな、真っ白なキャンバスに“無題”って書いてあってん」
「あるあるやな」
「俺もあんな芸術家になりたい。“無笑”って書いたらウケるやろ」
「スベりを美化すな!」
「ほんなら、俺らの漫才もアートにして美術館で展示しよや」
「マイク一本どこ飾んねん」
「“会話という絵画”や!」
「間が空きすぎて死ぬぞ!」
笑いが一斉に弾け、客席のライトがちらりと反射する。
笑いが波打ったあと、わずかな呼吸の間が生まれた。
その静けささえ、ネタの一部に思えた。
「芸術ってのはな、わからんからええんや。スベりもそうや」
「岡本太郎に叱られるぞ!」
「俺も芸術に挑戦してみたいんや」
「お前が?中学の美術1だったのに!?」
「“笑いのモナリザ”を作りたい」
「お前が笑うたびに不安になるわ!」
イチノセが静かに目を細める。
「モナリザってな、笑ってるようで笑ってへんやん?」
「まぁ、微笑みやな」
「つまり、ウケてるようでスベってる顔や」
「モナリザが真顔になるわ! ルーブルからクレーム来るで!」
客席がどっと沸く。
イチノセは笑いながらマイクを指でつつき、
「俺の顔もそうやろ?」
「笑ってんのかスベってんのかわからん顔やな」
「これが芸術や」
「お前それ、笑われる芸術やなくて、笑えん芸術や!」
笑いの渦が広がり、照明がわずかに熱を増す。
イチノセは一拍置いて、低い声で言った。
「俺の苦笑いが100年後に展示されたらどうする?」
「“現代の痛々しい肖像”ってタイトルやろ!」
笑いと拍手が交じり合い、音がリズムのように舞台を包む。
イチノセが照れくさそうに肩をすくめた。
「“最後の晩餐”ってあるやろ。俺のは“最後のスベり”や」
「ダヴィンチに叱られろ!」
イチノセが静かに客席を見渡す。
「ほれ、客の目がキリストみたいに優しいやろ」
「俺ら殉笑者になるな!」
会場の笑いが天井を叩き、ライトの反射がゆらめいた。
イチノセはふっと真顔になり、静かに言う。
「なあハヤシ、スベりにも哲学あると思わん?」
「哲学よりも滑り止め塗れ!」
イチノセが笑ってから、少しだけ間を置いた。
「……笑いも芸術も、説明した瞬間に死ぬんや」
「急に深いこと言うな」
「せやから俺のスベりも、生きた芸術や」
「ほな、お前の芸術、毎日死んでるな!」
笑いがひとしきり波打ったあと、再び静寂が降りた。
マイクの金属音だけが響き、その静けさがまるで余白のように美しかった。
イチノセは微笑みながら、ゆっくりと口を開く。
「でもな、モナリザは何百年も微笑んでる。
俺らも何百回スベっても、また笑う。それでええやろ」
「名画目指すな、名漫才目指せ!」
「これが俺らの“微笑みの芸術”や!」
観客の笑いが波のように広がり、手のひらの音が空気を震わせる。
俺は口を開いた。
「うまいこと言うな!――って、スベってるスベってる!」
イチノセがニヤリと笑う。
「前衛的やろ?」
「モナリザに謝れ!」
「これが俺らのルネサンスや!」
「やかましいわ! もうええわ! ありがとうございましたー!」
拍手が弾けるように広がり、照明がその熱を跳ね返した。
そして二人の影が、ゆっくりとキャンバスのように沈んでいく。
***
舞台袖に戻ると、イチノセは汗を拭きながら笑った。
「なあハヤシ、今日のネタ、ちょっと“絵になった”気せえへん?」
「よう見たら油絵やなくて脂汗やけどな」
「それも味や」
二人で笑って、缶コーヒーを開けた。
シュッという音が、さっきの拍手の残響みたいに響いた。
「俺ら、絵には残らんけど――」
「笑ってくれた人の心には残るやろ」
「せやな。傑作にならんでも、心に残るなら、落書きでもええねん」
ふたりの笑い声が、静かな舞台裏にゆっくり溶けていった。
あとがき
風まかせ文芸部のお題「芸術」に参加させていただきました。
最初は「AIが芸術分野に進出する」みたいな話を書こうと思ってたんですが――
あとがきが本編の3倍になりそうだったのでやめました(笑)
結局、困ったときの漫才話。我らの《ネジ曲がり》です(笑)
昨日の今日でどうしようかなと思いつつ、
漫才として考えるとアイデアがポンポン出てくる。
やっぱりこのフレームワークは強い。
それと今回、アイキャッチのイラストもちゃんとキャラデザしました。
今までは最初に作ったやつをベースにAIに描かせてたんですが、
回を重ねるうちにちょっとずつブレてきたので(笑)
これからも困った時に彼らが登場する予定なので、出番はまだまだ多そうです。
芸術でも恋でも失敗でも――ネジ曲がりなりに笑いに変えていけたらと思います。
次回もどうぞ、ゆるく見守ってやってください。
✨宣伝パート✨
もし少しでも「笑いって芸術かも?」と思ってもらえたら、
ぜひ――スキ・フォロー・コメントをお願いします!
ネジ曲がりの二人が滑っても笑えるのは、
読んでくれる皆さんのおかげです。
そして現在、連載中の
📦『配達員ろること2号』も更新中!
配達先で起きる“ちょっと笑えて、ちょっと沁みる”物語を描いてます。
Xでは、
🛵フードデリバリーの話や、
📖ショートショート・小説、
🎨AIイラスト制作の裏話なども発信中。
ネジ曲がりもたまに迷い込んでくるかもしれません(笑)
フォローして一緒に“笑いのルネサンス”を起こしましょう!
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。
また、一部の描写は実在するXユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、
特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。
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